片思い7年目
◇◇◇
「失恋旅行にかんぱーい!」
「乾杯ってめでたい時にするもんとちゃうん?」
んで、一杯目だけでええやろ? と千颯は苦笑いで続けた。旅館のご飯は大層美味しく、いつもはほとんど飲まないお酒も進んでしまう。小鉢に盛られたお料理をパクパクと口に運び、手をつけていない千颯のお酒まで一人飲み続けた。気づけば酔いは回りに回り、今日一番の楽しい時間だった。千颯のスマホに通知が来るまでは。
「……彼女?」
「あほ。おったら今日来てへんわ」
嘘つかなくていいのに、と一瞥すると千颯は無表情でスマホを見つめていた。
「美代子の酔いをさましたる」
「なんでよ。今楽しいのに……」
ズイと目の前に差し出された画面には、タキシード姿の優太の写真があった。後ろの鏡にはウエディングドレスを着た女性が映り込んでいる。一瞬で酔いが醒めて、体温が下がった気がした。口に残ったアルコールが苦くて気持ち悪い。ゴクリと不味くなった唾を飲み込む。画面越しの優太は、やっと見慣れたスーツ姿よりも何倍も何倍もカッコよかった。
「浮かれてんなぁ、こいつ」
「……ムカつかないの?」
「俺が? なんで?」
「なんでって……千颯だって優太のこと好きなくせに!」
「好きは、ちゃうやん! 誤解生む言い方すなや!」
あぁ、そうだ。千颯の一番気に入らないところは、旅行中に彼女とメッセージを続けていることよりも、恋愛弱者の私をからかっていることよりも、優太の結婚を素直に受け止める姿勢だった。
「報告受けた時、すっごい怖い顔してたよ」
私と同じくらい納得がいかないはずなのに、冷めた瞳を隠して淡々と話を進める姿が少しだけ怖かった。
千颯は「そりゃぁ」とか「でもなぁ」とか切れの悪い言葉を続ける。私は本当はファミレスで言ってやろうかと思った話題を出す。まだ、酒は体を巡っているようだ。
「相手が結季奈なのが気に食わないじゃん、正直」
「今更言うたって遅いわ」
優太とお揃いの指輪をはめた人物、今野結季奈を私も千颯も知っている。彼女とは高校も大学も同じで、高校生の頃から優太に気があるのは知っていた。だからだろうか。優太の見えないところで、彼女は私にチクチクとトゲのある言葉を投げることがあった。「ダサ」とか「ウザ」とか省エネな罵倒。全く響かなかったのは、優太がこんな女を好きになるわけないと思ったからだし、彼女が汚い言葉を使って私を貶すほどその考えは強くなり、ライバルとすら思わなかった。
「あー、もう思い出しちゃったじゃん。悪口のレパートリー少ないんだよね、あの子」
「確かに。俺なんかチビしか言われてへんわ」
千颯にもその手が及んだときは流石に心配になったが、本人は全く気にしていないようだった。千颯が言うには、自分と仲良くなって優太に近づく作戦だったはずが、友人の枠にすら入れなかったため陰口をたたくようになった、らしい。自分勝手すぎて私も千颯も呆れたものだ。
「失恋旅行にかんぱーい!」
「乾杯ってめでたい時にするもんとちゃうん?」
んで、一杯目だけでええやろ? と千颯は苦笑いで続けた。旅館のご飯は大層美味しく、いつもはほとんど飲まないお酒も進んでしまう。小鉢に盛られたお料理をパクパクと口に運び、手をつけていない千颯のお酒まで一人飲み続けた。気づけば酔いは回りに回り、今日一番の楽しい時間だった。千颯のスマホに通知が来るまでは。
「……彼女?」
「あほ。おったら今日来てへんわ」
嘘つかなくていいのに、と一瞥すると千颯は無表情でスマホを見つめていた。
「美代子の酔いをさましたる」
「なんでよ。今楽しいのに……」
ズイと目の前に差し出された画面には、タキシード姿の優太の写真があった。後ろの鏡にはウエディングドレスを着た女性が映り込んでいる。一瞬で酔いが醒めて、体温が下がった気がした。口に残ったアルコールが苦くて気持ち悪い。ゴクリと不味くなった唾を飲み込む。画面越しの優太は、やっと見慣れたスーツ姿よりも何倍も何倍もカッコよかった。
「浮かれてんなぁ、こいつ」
「……ムカつかないの?」
「俺が? なんで?」
「なんでって……千颯だって優太のこと好きなくせに!」
「好きは、ちゃうやん! 誤解生む言い方すなや!」
あぁ、そうだ。千颯の一番気に入らないところは、旅行中に彼女とメッセージを続けていることよりも、恋愛弱者の私をからかっていることよりも、優太の結婚を素直に受け止める姿勢だった。
「報告受けた時、すっごい怖い顔してたよ」
私と同じくらい納得がいかないはずなのに、冷めた瞳を隠して淡々と話を進める姿が少しだけ怖かった。
千颯は「そりゃぁ」とか「でもなぁ」とか切れの悪い言葉を続ける。私は本当はファミレスで言ってやろうかと思った話題を出す。まだ、酒は体を巡っているようだ。
「相手が結季奈なのが気に食わないじゃん、正直」
「今更言うたって遅いわ」
優太とお揃いの指輪をはめた人物、今野結季奈を私も千颯も知っている。彼女とは高校も大学も同じで、高校生の頃から優太に気があるのは知っていた。だからだろうか。優太の見えないところで、彼女は私にチクチクとトゲのある言葉を投げることがあった。「ダサ」とか「ウザ」とか省エネな罵倒。全く響かなかったのは、優太がこんな女を好きになるわけないと思ったからだし、彼女が汚い言葉を使って私を貶すほどその考えは強くなり、ライバルとすら思わなかった。
「あー、もう思い出しちゃったじゃん。悪口のレパートリー少ないんだよね、あの子」
「確かに。俺なんかチビしか言われてへんわ」
千颯にもその手が及んだときは流石に心配になったが、本人は全く気にしていないようだった。千颯が言うには、自分と仲良くなって優太に近づく作戦だったはずが、友人の枠にすら入れなかったため陰口をたたくようになった、らしい。自分勝手すぎて私も千颯も呆れたものだ。