彼と妹と私の恋物語…結婚2週間で離婚した姉が再婚できない理由…
調査を進める京子に対し、内藤麻友の妨害は日に日に陰湿さを増していった。
京子のデスクに「死」と書かれたメモが置かれていたり、廊下でわざとぶつかってきてコーヒーをこぼされたり。
すべて監視カメラの死角を狙った、計算ずくの犯行だった。

「大丈夫ですか、鏡先生!」
その日も、給湯室で麻友に肩を突き飛ばされ、よろけた京子を支えた腕があった。
「営業部長の佐藤です。ひどいな、内藤さんは…」

営業部長の佐藤宗(さとう・しゅう)。
社内でも屈指の成績を誇るエリートで、爽やかな笑顔と裏表のない性格から、男女問わず人気が高い。

「ありがとうございます、佐藤部長。お見苦しいところを…」
「とんでもない。それより、火傷は?何かあったら、俺に言ってください。あの人は、少し…普通じゃないから」

佐藤はそう言うと、屈託のない笑みを浮かべた。
その真っ直な好意に、張り詰めていた京子の心がわずかに緩む。

「鏡先生。…よかったら、一緒に行ってほしいカフェがあるのですが…」
「え?」
「いえ…女性が多いカフェなので…」
恥ずかしそうに答えた佐藤がかわいくて、京子は思わず笑みがこぼれた。

「いいですよ」
「本当ですか?じゃあ、連絡先交換してください」
「はい、喜んで」

京子と佐藤は連絡先を交換し合った。

給湯室から聞こえる楽しそうな声。
その声を、近くで聞いていた秋太がいた。

複雑な気持ちを抑えるため、拳を握りしめた秋太。
「…僕だって…誘いたいのに…」

そう呟いた秋太。

それからも、秋太は何度も佐藤著京子が親し気に話している姿を目撃した。
時は、一緒にランチをしている姿を見ることもあった。
その度に、もどかしさが募り、二地の間に入って生きた気持ちにかられることもあった。

僕も…近づかなくては。
そう思った秋太は、京子に話しかけようと取り繕うが、サラッとスルーされてしまうばかりだった。

「…情けない…」
想いが空回りして、自分で情けなくなった秋太は、深いため息をついた。

ガラス張りの副社長室から、カフェテリアで楽しそうに談笑する京子と佐藤の姿が見える。
京子が見せる、自分には決して向けられることのない柔らかな微笑み。
胸を抉られるような嫉妬と、彼女をそんな状況に追い込んだ自分自身への怒りが、秋太の中で渦巻いていた。

あなたは、結婚できませんよ。
このまま部長と結婚したら、重婚罪で捕まります。

いつか、その言葉を彼女に告げなければならない。
7年前、楓から郵送されてきた離婚届。秋太は、それを一度も役所に提出していなかった。楓が無実だと信じていたから。そして何より、彼女を手放すことなど、到底できなかったからだ。法的に、茅野楓は今も宗田秋太の妻のままだった。

その日の夜、京子は一人、残業をしていた。パソコンのモニターには、無数の送金データが映し出されている。パズルのピースをはめるように、一つ、また一つと証拠を繋ぎ合わせていく。あと少し。あと少しで、麻友と、そして妹・百合を死に追いやった真実に辿り着ける。
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