彼と妹と私の恋物語…結婚2週間で離婚した姉が再婚できない理由…
佐藤は、静かにその場を離れた。
自分では、彼女を本当に幸せにすることはできない。彼女の隣に立つべき男は、宗田秋太なのだ。
佐藤は、二人の幸せを願い、身を引くことを決意した。
だが、その前に、一人の男として、好敵手として、秋太にきちんと話をしに行かなければならない。そう、心に決めた。
その日の業務時間が終わると、佐藤はネクタイを締め直し、まっすぐに副社長室へと向かった。
ノックをして中に入ると、秋太はデスクで書類の山に囲まれていたが、すぐにペンを置き、静かな目で佐藤を迎え入れた。
「副社長。今、少しお時間をいただけますでしょうか」
「…ああ。座ってくれ」
重厚なデスクを挟み、二人の間に重い沈黙が流れる。先に口火を切ったのは、佐藤だった。
「単刀直入に申し上げます。俺は、鏡先生…いや、茅野さんのことを諦めます」
その言葉に、秋太は表情を変えなかった。ただ、佐藤の目をじっと見つめ、次の言葉を待っている。
「彼女は…俺が想像している以上に、多くのものを背負っている。そして、そのすべてを受け止められるのは、副社長、あなただけだ。今日の商談の一件で、痛いほどわかりました」
佐藤は自嘲気味にフッと笑った。
「俺は、彼女の表面的な強さと美しさに惹かれていただけだったのかもしれない。彼女の本当の魂の在り処に、気づいてもいなかった」
その率直な言葉を聞き、秋太は静かに口を開いた。
「君は、知っていたんだ。鏡先生が、茅野さんだって」
「ええ、彼女が打ち明けてくれました。名前を変えた理由はまだ話せないと言って。特に深く知ろうとは思わなくて、ただ彼女の事が好きで支えになりたいと思っていただけだったので」
「そうか。…君は、本当にいい男だな、佐藤くん。だからこそ、僕も正直に話さなければならない」
秋太は椅子から立ち上がると、窓際に立ち、夜景に視線を向けた。
「君ほどの男を、最後まで欺いたままではフェアじゃない」
振り返った秋太の瞳は、真剣そのものだった。
「実は、僕と彼女は…法的には離婚していないんだ」
「…え?」
予想だにしなかった言葉に、佐藤は思わず聞き返した。
「どういう…ことですか?」
「7年前、彼女が置いていった離婚届を、僕は一度も提出しなかった。彼女の無実を信じていたし、何より、彼女を生涯守り抜くと誓った僕自身の決意の証だった。だから、僕たちの勝負は、最初からアンフェアだったんだ。すまなかった」
秋太は、静かに頭を下げた。