彼と妹と私の恋物語…結婚2週間で離婚した姉が再婚できない理由…
翌日。
トワは鏡家を訪ねた。
叔父は驚いていたが、足が悪いトワが一人で来てくれたことに感心していた。
リビングにトワを通して、柊は自分が見ていると言って席を外した叔父。
鏡家の広々としたリビングで、楓とトワは向かい合っている。
「…楓さん」
トワが、静かに口を開いた。その声は、いつもよりずっとか細い。楓は、じっとトワの目を見つめた。
「あの…私、あなたに酷いことをたくさん言いました。…ずっと、謝りたいと思っていました」
トワは、絞り出すように言葉を続けた。膝の上で組まれた手が、小刻みに震えている。
「秋太が…祖父の家に養子に行って、遠くに行ってしまって。私、ずっと、秋太に嫌われているんだって思い込んでいたんです。…祖父が亡くなって、仕事の関係で、やっと家に戻ってきてくれるって期待していたのに…」
トワの視線が、伏せられた。
「…秋太が、あなたを連れてきた時…太っていても、あなたは凛としていて、知的で、とても魅力的な女性だった。…だから、私、息子を奪われたような気がして、嫉妬してしまって…酷いことを言ってしまった。そのせいで、また秋太との距離が遠ざかってしまって…」
トワの言葉は、訥々としていたが、その一言一言に、過去の苦しみが滲み出ていた。楓は、何も言わずに耳を傾ける。
「…秋太が2週間で離婚したと聞いて、取り戻すチャンスだって思ったんです。実家に呼び戻したけれど…秋太の心は、ずっと楓さんを向いていた。7年経って、まさか柊くんというお子さんが生まれていたなんて…」
トワは、一度言葉を区切った。深く息を吸い込むと、再び顔を上げた。
「…柊くんを連れて、秋太と一緒に宗田家で暮らすって聞いて…また、嫉妬心が強くなってしまった。お手伝いさんを辞めさせ、家事を楓さんに押し付けて…本当に、意地悪なことをしました。…足が不自由だというハンデを背負っている自分を、ずっと責めていたんです。…だから…」
トワは、そこまで言うと、嗚咽を漏らして言葉に詰まった。
楓は、静かに頷いた。トワの言葉の一つ一つが、楓の心に深く響いた。
「…お気持ち、私、わかります」
楓が優しく語りかけると、トワは驚いたように顔を上げた。
「私にも、妹がいます。病弱で、両親に負担をかけてはいけないと思って、高校を卒業してすぐに叔父の家に養女に行き、アメリカに行きました。二度と帰ってこない、そう決めていたんです」
楓は、遠い目をして続けた。
「でも…妹の百合が転落死して、真相を知るために帰国しました。両親には、一度も会っていません。結婚を決めても、一切知らせていませんでした」
トワは、楓の意外な告白に、ただただ耳を傾けていた。
「だけど…母親になって、親の気持ちがわかるようになってきました。柊は元気な子だけど、もし、病弱だとしたら…心配で、目が離せなくなる。つい、手をかけてしまう。…それが、親心なのだと、今はわかります」
楓の言葉は、トワの心の奥底に染み込んでいく。
「私にとって、柊は命よりも大切な存在です。トワさんにとって、秋太さんがそうであったように。…だから、トワさんが秋太さんを思う気持ち、私には痛いほどわかるんです」
楓は、そっとトワの震える手に自分の手を重ねた。
「あの時は、私も余裕がなくて…でも、もう、私たちはすれ違うのは終わりにしませんか?これからは、家族として…秋太さんと柊のために、一緒に歩んでいきたいと、私は思っています」
トワの目から、大粒の涙が溢れ落ちた。それは、悲しみだけではない、長年の苦しみから解放された涙だった。楓の温かい手が、トワの心を包み込む。
二人の女性の間に、ようやく理解と共感が生まれた瞬間だった。
その夜。
秋太が鏡家に楓と柊を迎えに来た。
叔父は「これからも楓を頼む」といった。
トワと和解したことを聞いて、秋太もトワと本音で話したことを伝えた。
柊はそれなら安心だねと笑っている。