推しの在る生活



 〇月〇日

「初めまして 中野ミサ(美咲)です」

「は、はじめまして ええと、新田サイ(彩)です」

最初のお互いの印象はしばらくしてから語り合うまでそれぞれの心の中だけのものだった
わたしはと言えば 彼の印象は思っていたよりも普通の青年といった感じだった
わたしを前に緊張している感じが見て取れた
もっと苦学生的なイメージをもっていただけに肩透かしをくらったように感じたのを覚えてる
年下だろうなと感じていた印象は合っていた

彼は最初わたしへの興味よりも自分の作品についての感想を食い入るように聞いてきた
当然のことと言えばそうなのだが
もちろん目的はそのことなのだからわたしも用意していた感想を伝えた
彼は嬉しそうに時に興奮気味にわたしに作品についていろいろ話してくれた
どこの誰ともわからない一介の素人作家の話しをわたしは真剣に聞いていた
それすら楽しく聞けていることでわたしはより悦に浸っていた

奇跡的にも彼の居住地との距離はさほど離れていなかったこともあり彼と会ってのやり取りはその後も何度か続いた
金銭的に余裕のない彼との会食等の費用はわたしが率先して支払っていた

彼が作品を書く時間を得るために仕事に充てる時間はそれ程多くはないであろうことは容易に想像がついていたから
彼は最初遠慮こそしていたが常にわたしが押しきっていた
わたしは定職に就いていたので金銭面での不自由はなかった

これも一種の『推し活』だと割り切っていた



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