私の婚約者は隠れSP!? 〜毎日が甘くて溶けそうです〜
朝食の後は、庭園での散歩の時間だった。屋敷の庭は、昨日見たときよりもさらに美しく感じられた。色とりどりの花が咲き乱れ、風に揺れる木々の葉がさわやかな音を立てる。空は澄み切り、朝の涼しい空気が肌に心地よかった。
「危ないので、必ず私の内側を歩いてください」
悠真の声に、私は思わず彼を見上げる。彼は真剣な表情で、そっと手を差し出していた。その手を取ると、温もりがじんわりと伝わってくる。外の空気は気持ちいいはずなのに、彼の手の感触があまりにも心地よくて、私は思わず顔を上げられない。
「君が怪我をしないように、僕が側にいる。それだけです」
その言葉に、胸がぎゅっと締め付けられる。
普段は冷静で、どこか遠い存在のように感じる彼が、こうして私だけに徹底的に気を遣ってくれる。過保護ともいえるその行動に、心の奥が甘く熱くなるのを抑えられなかった。政略婚という言葉が、こんなにも温かい瞬間を生み出すなんて、想像もしていなかった。
庭園の小道を歩きながら、彼は花の名前や庭の歴史を静かに語ってくれた。その声は、まるで風に溶け込むように柔らかく、私の心をそっと包み込むようだった。
私はただ頷きながら、彼の横顔を見つめていた。整った顔立ち、風に揺れる黒髪、知的な瞳に宿る穏やかな光。こんな人が、私の婚約者だなんて――心のどこかで、まだ信じられない気持ちがあった。