私の婚約者は隠れSP!? 〜毎日が甘くて溶けそうです〜



 夜、夕食後のリビングは、静かで温かな空気に包まれていた。大きなソファに腰かけ、窓の外に広がる夜の庭園を眺める。

 星が瞬く空は、まるでこの屋敷の美しさを引き立てるようだった。悠真は私の隣に座り、穏やかな声で話しかけてきた。


 「今日は一日よく頑張りましたね」


 その言葉に、私は思わず微笑む。頑張ったと言われても、今日の私はただ彼の優しさに甘えていただけのような気がする。それでも、彼の言葉には、私を認めてくれるような力が宿っていた。

 次の瞬間、悠真が私の手を取り、そっと引き寄せた。驚いた私は、気がつけば彼の膝の上に座っていた。


 「えっ……?」


 思わず声を漏らすと、彼は軽く微笑むだけだった。


 「君が安心できるなら、これくらい許してくれるでしょう?」


 その言葉に、顔が一気に熱くなる。だけど、彼の腕に抱きしめられると、甘くて幸せな香りに包まれるようだった。

 胸の奥で、彼への想いが少しずつ大きくなっている自分に気づく。それが恋なのか、ただの安心感なのか、まだわからない。でも、この温もりに身を委ねていたいと思う自分が、確かにここにいた。

 夜が深まる中、私はソファの上で彼の腕に抱かれたまま、目を閉じた。リビングの柔らかな光、遠くで聞こえる時計の音、そして彼の心臓の鼓動――すべてが、私の心を穏やかに満たしていく。
 政略婚なのに、こんなにも温かい時間が待っているなんて、想像もしていなかった。この過保護ともいえる彼の行動が、私の心をどう変えていくのか――それを知りたいと思う気持ちが、静かに、だが確実に芽生えていた。



< 12 / 34 >

この作品をシェア

pagetop