私の婚約者は隠れSP!? 〜毎日が甘くて溶けそうです〜
第3章:葛藤



 昼下がりの窓辺で、私はひとり窓ガラスに額を押し当てていた。冷たいガラスの感触が、ほんの少しだけ心のざわめきを鎮めてくれる気がする。外では、庭園の木々が風に揺れ、葉が陽光を反射してきらきらと輝いていた。

 まるで、踊るように自由に揺れるその姿は、私の心とは対照的だった。私の心は、まるで嵐に翻弄される小舟のように、揺れっぱなしだった。


 「私は……愛される資格なんてない」



 その言葉が、頭の奥で何度も響く。幼い頃から、家族に振り回され、まるで道具のように扱われてきた。
 父の事業、母の野望――私はいつも、誰かのために存在する駒でしかなかった。愛されることなんて、夢物語だと思っていた。

 だからこそ、悠真の優しさ、彼の過保護ともいえる行動が、時々怖くなる。こんな温もりを知ってしまったら、失ったときの痛みがどれほど大きいか――考えるだけで、胸が締め付けられる。

 窓の外では、遠くで鳥がさえずり、風が花の香りを運んでくる。屋敷の庭園は、相変わらず美しく、まるで別世界のようだった。でも、私の心はそこに溶け込めない。政略婚という現実が、私を縛る鎖のように感じられる。
 この関係は、ただの取り決め。悠真の優しさも、きっと彼の責任感や育ちの良さの表れでしかない。そう自分に言い聞かせるたびに、心の奥にぽっかりと空いた穴が広がっていく。



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