私の婚約者は隠れSP!? 〜毎日が甘くて溶けそうです〜
夕方になると、いつものように悠真が現れた。リビングのドアを静かに開け、穏やかな声で話しかけてくる。
「遥さん、そろそろ庭を散歩しましょう」
その声は、まるで私の心をそっと撫でるように柔らかかった。だが、胸の奥で跳ねるような高揚感と同時に、言いようのない不安が押し寄せる。私は窓辺から振り返り、視線を彼に向けた。整った顔立ち、知的な瞳に宿る優しい光――いつも通り、完璧な彼がそこにいた。
「……今夜は、少し一人にして……ください」
小さな声で、ほとんど囁くように告げると、悠真の目に一瞬だけ驚きの色が浮かんだ。だが、すぐに彼はいつもの穏やかな微笑みを浮かべ、そっと頷いた。
「わかりました。でも、僕の目の届く範囲でだけね」
その言葉に、思わず息を呑む。彼の声には、冗談めいた軽さもあったが、その奥には私を守ろうとする強い意志が感じられた。
どこまでも、私を見守るつもりなのだ――。その過保護な姿勢に、心が温かくなるのと同時に、なぜか締め付けられるような感覚が広がる。
この優しさは、心配というよりも……何か別の、使命感のように感じられた。
私のためのものではないのかもしれない。政略婚という枠組みの中で、彼が果たすべき役割にすぎないのかもしれない。