私の婚約者は隠れSP!? 〜毎日が甘くて溶けそうです〜



 「今日も一日、よく頑張りましたね」


 その言葉は、まるで私の存在そのものを肯定してくれるようだった。彼の膝に座ると、体が自然に彼に預けられる。温もり、手の重み、優しい視線――すべてが、私の心を包み込むようだった。でも、心の奥では、理性が必死に叫んでいる。

『これは政略婚だから……私に愛なんて似合わない』


 そう自分に言い聞かせるたびに、胸がちくりと痛む。悠真の優しさは、ただの義務なのかもしれない。家族の期待に応えるための、役割にすぎないのかもしれない。それでも、彼の指先がそっと私の髪に触れるたびに、全身がとろけるような感覚に襲われる。こんな気持ち、知らなければよかった――そう思うのに、心は彼に支配されていく。


 「遥さん、疲れてる?」


 彼の声に、ハッと我に返る。見上げると、彼の瞳が私をじっと見つめていた。その視線は、まるで私の心の奥まで見透かすようで、逃げ場がない。


 「少し……でも、大丈夫」


 そう答えると、彼は小さく笑い、私の肩に手を置いた。その感触に、胸の鼓動が速まる。どうして、こんな小さな仕草で、こんなにも心が揺れるのだろう。



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