私の婚約者は隠れSP!? 〜毎日が甘くて溶けそうです〜
第4章:小さな事件

 庭園を歩いていると、ふと視界の端に人影が映った。柔らかな夕暮れの光が木々の間を縫い、色とりどりの花が風に揺れる中でその影は不自然に静止していて遠く、木立の陰に立つその人物は、じっとこちらを見つめているようだった。


 「……あの人、誰だろう」


 心の奥で、ざわめきが広がる。屋敷の庭園は、いつも安全で穏やかな場所だった。
 こんな風に、誰かに見つめられることなどなかったはずなのに。胸の奥で、不安が小さな波となって揺れる。私は思わず立ち止まり、目を凝らしてその人影を見た。

 だが、夕暮れの光に遮られ、顔までは見えない。


 「遥さん、大丈夫ですか?」


 背後から響いた悠真の声に、ハッと振り返る。いつもの穏やかな顔に、ほのかな緊張が混ざっているのがわかった。

 彼の瞳は、いつもより鋭く、私と庭園の奥を交互に見つめている。その視線に、胸の鼓動が速まる。


 「えっと……たぶん、大丈夫……」


 そう答えたものの、声は震え、心臓は早鐘のように打ち続けていた。悠真は一瞬だけ目を細め、私の様子をじっと見つめた後、ゆっくりと近づいてくる。その動きは、まるで私の不安を包み込むように慎重だった。

 その瞬間、悠真はすっと私の前に立ち、大きくて温かな手を差し伸べる。

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