愛妾を抱く冷徹皇太子に嫁ぎましたが、逆転して唯一の妃になりました
そして追い打ちをかけるように、背後から声がかけられた。

「皇太子妃殿下。」

呼び止められ、振り返ると一人の女性が優雅に歩み寄ってくる。

栗色の髪を結い上げ、豊かな装飾を身に着けたその姿は、ただの侍女には見えなかった。

「お初にお目にかかります。マルグリットと申します。」

「マルグリット……?」

耳慣れぬ名に、私は思わず首を傾げる。

てっきり新しく仕える侍女か何かと思ったが、そうではないのだろうか。

戸惑いながら答えを探していると、彼女はにっこりと笑った。

「皇太子殿下より、何も聞いておられないのですか。」

「えっ……?」

胸にざわりとした不安が広がる。

彼女の笑みは親しげに見えて、どこか冷たい棘を含んでいた。

次の瞬間、その口元が吊り上がり、不敵に歪む。

「フフ……やはり。」

ぞっとするような視線で私を射抜く彼女。

その正体を、私はまだ知らなかった。
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