愛妾を抱く冷徹皇太子に嫁ぎましたが、逆転して唯一の妃になりました
「訳あって、皇太子殿下のお傍に仕えています。」

その言葉に、心臓が強く跳ねた。――まさか、この人が。

はっと息を呑む。目の前の女性が、ラファエルの「愛妾」だというのか。

マグリットは儚げな笑みを浮かべていた。

白い肌と細い肩、楚々とした雰囲気。

思わず見入ってしまうほどの繊細な美しさに、私は妙に納得してしまった。

あの冷徹な皇太子が彼女を離さず、側に置き続ける理由が、なんとなく分かってしまったからだ。

「……イリスです。宜しく。」

かろうじてそう名乗るのが精一杯だった。

彼女の前に長く立っていられず、私は足早にその場を離れる。

背後から追いかけてくるような視線を感じながらも、振り返ることはできなかった。

――あれが、ラファエルの愛している人。

自分にそう言い聞かせながら、与えられた部屋にたどり着いた。

扉を閉めると、緊張の糸が切れたようにその場に座り込み、深く息を吐く。

胸に広がるのは敗北感と、どうしようもない孤独だった。
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