愛妾を抱く冷徹皇太子に嫁ぎましたが、逆転して唯一の妃になりました
すると突然、部屋の扉を叩く音がした。

「……俺だ、イリス。」

胸が跳ねる。急いで扉を開けると、そこに立っていたラファエルは、やはり無表情のままだった。

氷のように冷たい瞳が、ただ静かに私を見下ろしている。

「マルグリットから聞いた。お前に会ったと。」

その一言に、思わず息を呑んだ。――やはり、彼女は特別なのだ。

私は小さく頷くことしかできなかった。

すると彼は淡々と告げる。

「気にするな。お前はいずれ王妃になる身だ。」

その言葉に、私ははっとする。

そうだ、どれほど愛されても、マルグリットは王妃にはなれない。

正妃の座に座るのは、血統を持つ私だけ――その事実が胸を鋭く貫いた。

だが次に落とされた言葉は、冷水のように私を打ち砕く。

「お前はお前の義務だけ果たせ。」

淡々と、まるで情の欠片もない声音。

私は唇を噛みしめ、込み上げる涙を必死で押し殺した。

泣くことさえ許されない。諦めの中で、胸の奥に小さな決意だけが芽生えていた。
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