愛妾を抱く冷徹皇太子に嫁ぎましたが、逆転して唯一の妃になりました
しばらくして、一度だけラファエル皇太子がヴァレンティーナ公爵家を訪れた。

婚約者として挨拶を交わす場であったが、扉の向こうから現れたその人は、噂通りの冷たい威厳を纏っていた。

さすがは「冷徹皇太子」と呼ばれるだけのことはある。

端正な顔立ちには感情の影すらなく、私に視線を落としても、微笑みどころか礼儀的な温もりさえ見せない。

そして次の瞬間、胸を打ち抜くような衝撃の一言が放たれた。

「俺には愛している女がいる。妾として側に置いている。それが嫌なら、婚約を破棄してもらっても構わない。」

あまりに堂々とした宣言に、私は言葉を失った。

婚約者の前で、他の女を愛していると公然と告げるなど前代未聞。

唖然とする私をよそに、彼は冷たいまなざしを崩さず、その場の空気を凍りつかせる。

これが私の未来を共にするはずの人なのか――。

胸の奥が重く沈んでいくのを感じながら、私は必死に気丈な顔を保つしかなかった。
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