愛妾を抱く冷徹皇太子に嫁ぎましたが、逆転して唯一の妃になりました
「ううっ……」

静まり返った寝室に、嗚咽だけが響く。

私はベッドに伏し、枕を濡らしながらひとり泣き明かした。

婚約者から告げられた衝撃の言葉――「俺には愛する女がいる。嫌なら婚約を破棄しても構わない。」

その冷酷な響きが耳から離れず、心を深く抉り続ける。

結婚したとしても、彼に愛されることは決してないだろう。

義務だけを果たす妻、形式だけの王妃。

それが私の未来だと悟ると、胸が締め付けられた。

けれどもすでにヴァレンティーナ公爵家では、婚儀の準備が着々と進んでいる。

家中は華やぎに満ち、両親も親族も誇らしげな笑みを浮かべ、使用人たちは祝宴に向けて奔走していた。

その中で、ただ一人の私だけが絶望を抱いている。

王命を「はい、わかりました」と断ることなどできるはずがない。

拒めば一族に汚点を残すだけ。だから私は逃げられない。

残りわずかな婚約期間――私はきっと、この孤独と屈辱を抱えたまま、涙に暮れる日々を過ごすしかないのだ。
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