愛妾を抱く冷徹皇太子に嫁ぎましたが、逆転して唯一の妃になりました
翌日、王宮で盛大な結婚式が執り行われた。

絢爛な装飾に彩られた大聖堂、参列する貴族たちの祝福の視線、響き渡る聖歌

――誰もが羨む華やかな式のはずだった。だが、私の胸は冷え切っていた。

「ラファエル・ディアスは、公爵令嬢イリス・ヴァレンティーナを妻とし、これを敬い支えることを誓います。」

朗々と響く皇太子の誓いの言葉に、私は心の中で小さく笑った。

――上手く誤魔化したな、と。肝心の「愛する」という言葉を、彼は最後まで口にしなかったのだ。

冷徹な彼らしい、愛を拒むための巧妙な言い回し。

私も続けて誓いの言葉を述べたけれど、何を言ったのかは覚えていない。

緊張もあったが、それ以上に「どうでもいい」という諦めの気持ちが大きかった。

豪華な衣装に身を包み、人々の喝采を浴びながら、心は虚ろなまま。

これは祝福の結婚式ではない。

ただ王命によって取り交わされた契約にすぎない。

そう思えば思うほど、胸の奥に冷たい痛みが広がっていった。
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