反抗期の七瀬くんに溺愛される方法

夏樹side⑨

 ――やっぱりこうなるよな。

 文化祭のあの日から、廊下で誰かがヒソヒソと話す声が耳に入るようになった。
「ねぇ、あのときのチャイムの音、聞いた?」
「夏樹が小春の手、引いてたよね」
「やっぱり、そういう仲なのかな」

 くだらない噂。
 でも、それが“くだらない”で済まないのは、俺が一番よく知ってる。

 ――もう二度と、あいつを泣かせない。
 中2のときにそう決めたはずだったのに。
 また、こんなことになっちまった。

 だから、避けるしかなかった。
 冷たくして、誤解させても。
 また同じことが起こるくらいなら、そのほうがマシだ。

 「おはよう」
 朝、小春が笑顔でそう言ったとき、思わず返してしまった。
 でも目を見たら、心がぐらついた。
 だから、視線を逸らした。

(……俺のせいでまた噂になるなんて、絶対嫌だ)

 教室でいつも通り過ごしているふりをしても、気づけば視線があいつを追ってる。
 笑ってる顔を見るたび、心がちくりと痛む。

 放課後、声をかけられた。
「ねぇ、一緒に帰ろう?」

 小春の声。
 でも、俺はすぐに答えた。
「……悪い、部活ある」

 このまま顔を見ていたら、全部壊れそうだった。

 背を向けた瞬間、胸がぎゅっと締めつけられる。
 踏み出す足が重くて、心がずっと叫んでる。

(俺だって、本当は……お前と帰りてぇよ)

 せっかく、近づけたと思ったのに。
 また、その笑顔から離れていく――

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