反抗期の七瀬くんに溺愛される方法
「でも、負けた気はしねぇな」
「え?」
「小春が笑ってんの、見れたから」

 不意打ちの一言に、小春の顔が一気に真っ赤になる。
「なっ……! もう、朝からそういうのずるい!」
「うるせぇ。朝から騒ぐな」
 そう言って、夏樹は布団を被り直す。だが、その頬はほんのり赤かった。

 小春は呆れたようにため息をつき、でもその口元には笑みが浮かんでいた。
「もう、なつくんのそういうとこ、ほんとずるいんだから!心臓に悪い!」

 夏樹の寝室に、柔らかな朝日と、二人の笑い声が溶けていった。

 夏樹の家を出ると、朝の空気はひんやりしていて、秋の匂いがした。
 通学路の木々が少しずつ色づき始めていて、朝日が差し込むたび、金色に光る。

「ほら、早く行かないと遅刻するよ」
 小春がリュックを背負いながら振り返る。

「わかってるよ。そんな急がなくてもいいだろ」
 欠伸をしながら靴を履く夏樹。寝癖を手ぐしで直す仕草が妙に自然で、なんでもない瞬間なのに、小春の胸が少し高鳴った。

 2人並んで歩き出す。
 いつも通りのはずなのに――昨日の“あの瞬間”を思い出すと、どうしても距離が近く感じる。

 気づけば、指先が少しだけ触れた。
 そのたびに、小春の心臓が跳ねる。
< 92 / 157 >

この作品をシェア

pagetop