【完結】毎日「おはようのキス」をしないと発情する呪いにかけられた騎士団長を助けたい私
 ――きちんと話し合ったほうがいいですよ。
 そう言われても、リネットは自分の希望を伝えるのが下手だ。仕事に必要なものであれば、それを理由にあれが欲しい、これが欲しいと言えるのだが、そうではない自分の生活に関するものは何も言えなくなる。
 そのため、いつまでもキサレータ帝国から持ってきた古くさい寝間着や下着を身につけていた。
 自分の意見を相手に伝えられないのは、どうしてもアルヴィスを思い出してしまい、萎縮してしまうからだ。彼に何か意見を伝えれば、怒鳴られ、殴られた。
 何か相手に言いたいことがあっても、言えないほうが多い。あのときの記憶が蘇り、言葉が出てこない。
 だけどラウルならどうだろうか。
 彼はリネットがキサレータ皇帝の側妃だったと伝えても、蔑むような、汚いものを見るような視線を向けてこなかった。むしろ、どこか優しさと同情に満ちた、そんな眼差し。
 先ほどは、リネットの体調も悪かったという理由もあって、言いたいことを全部ラウルに言っていない。
 こんな気持ちのまま彼と一緒にいて、彼の呪いを解くためにいろいろと調べたくない。
 できればすべてを伝え、すっきりとした気持ちで前に進みたい。
 そう思ったリネットは、勢いよくお湯から飛び出した。
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