【完結】毎日「おはようのキス」をしないと発情する呪いにかけられた騎士団長を助けたい私

6.

* * *

 アルヴィスは苛立ちを抑えきれなかった。グラスに琥珀色の酒を注いでは一気に飲み干し、また注ぐ。その繰り返しは、まるで心の乱れを酒で押し流そうとするかのよう。
「皇帝陛下。お身体に障ります」
 ひんやりとした夜気が漂う部屋に、真っ白いローブを揺らしながら姿を見せたのは、侍医のファミルだ。その声は穏やかでありながらも、どこか諫めるような響きもある。
 アルヴィスはファミルには逆らえない。
 幼少期から彼の世話になり、熱を出せば寝ずの看病をし、腕を怪我して食事がままならないときには、ファミル自ら匙を手に食べさせてくれた。両親以上にそばに寄り添い、アルヴィスの身体を知り尽くしているのがこの男なのだ。
 父が亡くなり、アルヴィスが十五歳で皇帝に即位したときも、隣にいたのはファミルだ。
 だからこそ口うるさい。
「わかっている。だが、酔いたい気分なのだ」
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