【完結】毎日「おはようのキス」をしないと発情する呪いにかけられた騎士団長を助けたい私
 ふかふかのソファに身を沈めるアルヴィスの手にはグラスが握られたまま。
 テーブルの上に置かれている瓶には半分以上の酒が残っているというのに、ファミルはそれを取り上げた。代わりにあたたかいお茶の入ったティーポットを置く。ほのかに薬草の香りが漂い、部屋の冷えた空気をわずかに和らげた。
「そちらを飲み終えましたら、こちらをお飲みください。酒が残れば、明日の政務に差し支えます。これは酔い覚ましに効く茶です。眠りも促しますから」
 アルヴィスが酒に溺れる理由を、ファミルは知っているのだ。
 この一年、アルヴィスはまともに眠れていない。目の下には濃い隈が刻まれ、顔色は青白い。化粧でなんとか取り繕って人前に立つものの、一日の終わりには疲れがどっと押し寄せる。眠れない夜が、それをさらに増幅させる。
「どなたか妃をお呼びしましょうか?」
 女を抱けば眠れるとでも言いたげなファミルの口調に、アルヴィスは小さく舌打ちした。だが、アルヴィスにはそんな気すら失せている。
 側妃は四人。まだ正妃はいない。懐妊した側妃を正妃にすると言い続けて数年経つが、まだどの側妃にも懐妊の兆しは表れない。これではまるで、アルヴィスに問題があると示しているようなもの。
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