【完結】毎日「おはようのキス」をしないと発情する呪いにかけられた騎士団長を助けたい私
「ま、こんな障壁など、障壁にもならないさ。策はいくらでも考えられるからね」
 ブリタの目が鋭く光った。その表情は、まるで妖艶な魔女のように心を掴む迫力があった。
「私としてはリネットを気に入っているんだよ。だから、彼女を悲しませるようなら……わかってるね?」
 その言葉は短いながらも、ラウルの背筋に冷たいものを走らせた。
 本能が告げる――この人物に逆らってはならない。
「彼女は俺にとって命の恩人です。むしろ今、俺の命は彼女に握られている。だが、この気持ちはそれだけではないことだけ伝えておきます」
「なるほど……では、リネットを派遣するのを許可しようね」
 ブリタは満足そうに頷き、依頼書にリネットの名前を書き、サインを添えた。
「あの子は見ての通り、世間知らずのお嬢さんだ。悪い虫に捕まらないように、頼んだよ。あの子が危険に巻き込まれるようなことがあってはならない。わかってるね? スサの王女様だからね……」
 たとえセーナス王国民となったとしても、それは書類上の話にすぎない。
 また相手が小国とはいえ、王族がセーナス王国で事件に巻き込まれ命を落とせば、近隣諸国からの非難は避けられない。
 独立して十数年、セーナス王国はまだ不安定な立場にあるのだ。
「はい。それは、俺が命に代えてでも……」
 ブリタから手渡された依頼書は、ずしりと重く感じられた。
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