【完結】春の庭~替え玉少女はお飾りの妻になり利用される~
44 アースキン伯爵令嬢、ミュリエルの過去④
ところが、ある日侯爵家での定例のお茶会で、侯爵家の家族が勢ぞろいする中、スタンリー侯爵に楽譜を渡された。
私はピアノを弾けないって知っているだろうと抗議しようとしたら、その楽譜を取り上げられる。
何がしたかったのかと不思議に思っていると、全員の目が私を見る。
「楽譜を見たな?」
「……ええ」
「何の曲だった?」
「そんな……すぐ取り上げられたから分からないわ」
「……君がコンサートでよく弾いてた曲なのに?」
「そうなの? よく見せてくれれば……」
「雨のささやき」
「え?」
「クラウン行進曲」
「……」
「子猫のワルツ」
「……」
「……そうだな。『雨のささやき』を鼻歌で歌ってくれないか?」
「……」
「ほら、プログラムによく入っていた曲だ。ピアノは弾けなくても曲は覚えているだろう? 鼻歌で歌ってくれ」
コンサートをするようになってから、私は一切ピアノの練習をしていない。
舞台でオリヴィアが弾いている間、私は控室でお母さまとお茶を飲んでいた。
「……やはり、君が弾いていたんじゃなかったんだな。最近、君の姉君が夫のキャンベル次期公爵とコンサートをしてるのを知っているか?」
「え?」
「『バイオリン王子と白ウサギのコンサート』として有名なんだが、白ウサギは君の姉君だな? 君のコンサートで弾いていたのは……私を感動させたのは彼女だって、そのピアノの音を聞いてすぐ分かったよ」
あの女! また私の邪魔をしてきたの!
「どうりで君から、あのコンサートで感じた優しさや上品さを感じない訳だ」
優しさや上品さ? あの娼婦の娘より私が劣っていると言うの!?
「婚約破棄をさせてもらうよ」
「え?」
「侯爵の私を騙したんだからね、それ相応の罰も受けてもらう」
「そんな! でもわたくしこそが正妻の娘で……」
「また泣き真似をする気かい? 君の演技は下手くそすぎるよ」
「……」
「私はあのピアノを聴いて、その人となりに惹かれたんだ。だから偽物はいらないよ」
それからは坂を転げ落ちるようだった。
スタンリー侯爵に、即刻婚約破棄され、騙したとして多額の慰謝料を請求されてしまった。
そしてオリヴィアがいなくなって、急遽コンサートを中止にしたけれど、スタンリー侯爵の威光があったから、会場の予約をキャンセルできた訳で……婚約破棄になったとたん会場の運営会社から、高額なキャンセル料も求められてしまった。
それらを払うと伯爵家の財産は、ほぼ全て無くなってしまった。
さらにそれなりに私はピアニストとして有名になっていたせいで『替え玉を使った詐欺師』だと新聞にも取り上げられてしまった。
しかも取り上げた新聞社は、皮肉なことにスプリング新聞社で……そのせいで我が家は信用を無くし、事業も傾いてしまった。
元々領地の収入が少なかったため、税が収められなくなって、とうとう去年男爵に降爵してしまった。
お父さまは毎日酒浸りで、お母さまは使用人はもちろん、私にもヒステリックにわめき、暴言を吐く。
「どうしてもっと上手くやれなかったのよ!」
「そもそも替え玉を使うなんて、お母さまの考えに無理があったのよ!」
「なんですって!」
「伯爵家が男爵に降爵だなんて……先祖の方に顔向けできる? 没落してしまったのは全部、ぜーんぶお母さまのせいよ!」
そう言ってやったら、お母さまは部屋から出て来なくなった。いい気味。
でもどうしよう。私、もうすぐ23歳になるのよ?
貴族女性としてはすっかり行き遅れなのに、未だに次の婚約者が見つからないの。
友達はみんな結婚して、子供までいるのに……
ねぇ、これから私はどうなるの?
こんな事になって、私はどうしたらいいの……?
私はピアノを弾けないって知っているだろうと抗議しようとしたら、その楽譜を取り上げられる。
何がしたかったのかと不思議に思っていると、全員の目が私を見る。
「楽譜を見たな?」
「……ええ」
「何の曲だった?」
「そんな……すぐ取り上げられたから分からないわ」
「……君がコンサートでよく弾いてた曲なのに?」
「そうなの? よく見せてくれれば……」
「雨のささやき」
「え?」
「クラウン行進曲」
「……」
「子猫のワルツ」
「……」
「……そうだな。『雨のささやき』を鼻歌で歌ってくれないか?」
「……」
「ほら、プログラムによく入っていた曲だ。ピアノは弾けなくても曲は覚えているだろう? 鼻歌で歌ってくれ」
コンサートをするようになってから、私は一切ピアノの練習をしていない。
舞台でオリヴィアが弾いている間、私は控室でお母さまとお茶を飲んでいた。
「……やはり、君が弾いていたんじゃなかったんだな。最近、君の姉君が夫のキャンベル次期公爵とコンサートをしてるのを知っているか?」
「え?」
「『バイオリン王子と白ウサギのコンサート』として有名なんだが、白ウサギは君の姉君だな? 君のコンサートで弾いていたのは……私を感動させたのは彼女だって、そのピアノの音を聞いてすぐ分かったよ」
あの女! また私の邪魔をしてきたの!
「どうりで君から、あのコンサートで感じた優しさや上品さを感じない訳だ」
優しさや上品さ? あの娼婦の娘より私が劣っていると言うの!?
「婚約破棄をさせてもらうよ」
「え?」
「侯爵の私を騙したんだからね、それ相応の罰も受けてもらう」
「そんな! でもわたくしこそが正妻の娘で……」
「また泣き真似をする気かい? 君の演技は下手くそすぎるよ」
「……」
「私はあのピアノを聴いて、その人となりに惹かれたんだ。だから偽物はいらないよ」
それからは坂を転げ落ちるようだった。
スタンリー侯爵に、即刻婚約破棄され、騙したとして多額の慰謝料を請求されてしまった。
そしてオリヴィアがいなくなって、急遽コンサートを中止にしたけれど、スタンリー侯爵の威光があったから、会場の予約をキャンセルできた訳で……婚約破棄になったとたん会場の運営会社から、高額なキャンセル料も求められてしまった。
それらを払うと伯爵家の財産は、ほぼ全て無くなってしまった。
さらにそれなりに私はピアニストとして有名になっていたせいで『替え玉を使った詐欺師』だと新聞にも取り上げられてしまった。
しかも取り上げた新聞社は、皮肉なことにスプリング新聞社で……そのせいで我が家は信用を無くし、事業も傾いてしまった。
元々領地の収入が少なかったため、税が収められなくなって、とうとう去年男爵に降爵してしまった。
お父さまは毎日酒浸りで、お母さまは使用人はもちろん、私にもヒステリックにわめき、暴言を吐く。
「どうしてもっと上手くやれなかったのよ!」
「そもそも替え玉を使うなんて、お母さまの考えに無理があったのよ!」
「なんですって!」
「伯爵家が男爵に降爵だなんて……先祖の方に顔向けできる? 没落してしまったのは全部、ぜーんぶお母さまのせいよ!」
そう言ってやったら、お母さまは部屋から出て来なくなった。いい気味。
でもどうしよう。私、もうすぐ23歳になるのよ?
貴族女性としてはすっかり行き遅れなのに、未だに次の婚約者が見つからないの。
友達はみんな結婚して、子供までいるのに……
ねぇ、これから私はどうなるの?
こんな事になって、私はどうしたらいいの……?