義弟の甘い罠は壊れるほど狂おしく【長編版】
 姉さんが大学を卒業して、兄さんの仕事を手伝うようになった。
 高校を卒業したあたりから、ポツポツとお見合いの話はあったけど、大学卒業と同時にそれが増えた。姉さんは特別美人というわけではないけれど、雰囲気が柔らかくて愛嬌があって……俺はそんな姉さんが好きだった。今まではなんとか俺が相手を排除してきたけれど、お見合いとなると、宝堂グループも絡んでいてそうもいかず……。
 なんとなく、姉さんの顔に疲れが見え始めた。
 俺が、そばにいられれば。
 だけど、それだけはだめなんだ。
 あいつ──茉莉乃がいる限り、俺は姉さんと一緒になれない。

 それに、姉さんが兄さんのことを好きなの、知ってる。
 だから、二人が一緒になるのが一番いい。
 兄さんなら……安心して姉さんを任せられる。
 そうしたら俺も──ずっと義弟でいられる。
 
 ある日、思い切って聞いてみた。
 
「ねぇ、兄さんはさ……姉さんのこと、好きなんでしょ?」
「な、なにを急に……」

 兄さんは、わかりやすく表情を変えた。
 
「姉さんも仕事が板についてきたみたいだしさ、そろそろいいんじゃないの? プロポーズ」
「……いや。俺は……」
「好きじゃ、ないの?」

 兄さんは、言葉を濁す。
 
「正直、菜月まで宝堂の名前に縛られることはないと思うんだ……。ただでさえ、世間の目があるというのに」

 ああ……そうか。兄さんも、姉さんを守っているんだ。
 
「おまえだってそうだろう? だからモデルなんてやり始めた」
「そうだけど。……でも、モデル〝なんて〟って言い方はひどくない?」
「ああ、悪い……」
「でもさぁ、そう思うなら、兄さんが一番近くで見守ってあげたらいいんじゃないの? 姉さん、お見合いに疲れてるみたいだよ。それに、同じ事務所の……保科さんだっけ? あの人も、姉さんのこと気になってるみたいだけどなぁ」
 
 けしかけるようにそう言うと、兄さんは次の日、姉さんにプロポーズしていた。
 俺はその日から、影として姉さんを見守ることに決めた。

 
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