天敵スズメバチ王と政略結婚しましたが、食べられそうなのは私の心です 〜溺れるのは蜜か毒か〜

"あれが噂のミツバチ王妃か。
オオスズメバチ族へ売られたとか……"


言葉はないが、視線が雄弁に語る。


けれど──


アザレオが無言で首をわずかに振ると、
キイロスズメバチたちは目を逸らし
羽ばたきを強めた。


ルーラが淡々と続ける。


「彼らさ警戒心が強い分、攻撃性も高い。
蜂のなかでも繁殖力が高く、集団で押し寄せられると我々でもかなり厄介です」
「なるほど……」


じろりと視線を返してくるキイロスズメバチを、カミリアは静かに見つめた。

警戒音のように不規則に唸る、彼らの薄翅。
どこか……焦燥と"飢え"の匂いがした。


(この国の周囲には、まだまだ知らない脅威があるのね)


アザレオは一言も発さぬまま、
ひたすら空を切り裂いていく。


その背に、ひどく重いものを感じて──

カミリアは必死に、再び翅を動かした。

初夜では「怖い」としか思えなかった、
あの翅、あの背中。

しかし今は、少しでもあの背に並びたいと思っている己がいた。


(私はまだ何も知らなすぎる。
私のなすべきことを見つけるために……
この視察、目をそらさないわ)





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