天敵スズメバチ王と政略結婚しましたが、食べられそうなのは私の心です 〜溺れるのは蜜か毒か〜
他のハチから破壊の限りを尽くされた、
ハナバチの王宮。
蜜は根こそぎ奪われ、卵も蛹も、喰い荒らされたまま朽ちていた。
その無残な跡に、胃の奥がむかつく。
(なんて、ひどい……)
吐き気をこらえて、カミリアは転がっていた小さな蜜壺を拾い上げた。
(スズメバチの庇護がなければ、
フロライアも今頃どうなっていたか……)
ヴェノミールに嫁いだことは決して軽い選択ではなかった。
けれど今、こうして己も祖国も生きていることもまた奇跡であった。
胸の奥で、何かがずしりとする。
(私はヴェノミールの王妃。
いいえ、いつか"女王蜂"になる……)
花粉の香る風のなか、カミリアは
小さく翅を揺らす。
この身体で必ず子を産み、命を繋いでいかなければ――
重すぎる決意の奥、ほんのひとしずく……別の感情が滲んでいた。
(アザレオ陛下との子。
……どんな子が、生まれるのかしら)
まだ清いままの夜が続いている。
けれど、まだ見ぬ我が子たちを想像すると……胸が熱くなった。