天敵スズメバチ王と政略結婚しましたが、食べられそうなのは私の心です 〜溺れるのは蜜か毒か〜
その夜――
王宮の裏庭の奥で。
ぽつりと灯った温室の明かりが、
夜の静寂にほのかに揺れていた。
花粉を採取する木べらを手にしたカミリアは、そっと窓の外を見やる。
ほの白い光が、ふわりと宙に浮かんだ。
「……ホタル?」
ひとつ、またひとつ。
林の向こうから光の粒がこぼれ出す。
夏の終わりには姿を消すはずの命たちが、
季節のはざまに、ささやかな灯を残していた。
「きれい……まだ、飛んでいたのね」
ふと背後に、重低な翅音。
振り返れば、外套姿のアザレオが温室に入ってきていた。