MYSTIQUE
 職員がハッキリ聞くと、母親は怒りで顔を赤くしながら、
「あなた⋯⋯それはどういうつもりで聞いてるわけ!?」
「それは、一郎くんを迎えにいらしたということでしたら、生活の基盤の確認が必要ですから」
「ふざけないで!この子は、私が腹を痛めて産んだのよ?赤の他人のあなたが何言ってるの!?」
 一郎は、無言で俯いたままだ。
「申し訳ありませんが、今日のところは、これでお引き取り願います」
 職員が毅然として言うと、母親は烈火の如く怒り出した。
「あんた、何様!?」
「お引き取りください」
 二人の女は睨み合い、母親は、
「施設の職員って、頭おかしいんじゃない!?」
 そう言い捨てると、やかましくヒールの音を鳴らしながら帰っていった。
 俯いたままの一郎に、
「一郎くん⋯⋯大丈夫?」
 職員が、そっと声をかけると、一郎は黙ったままで頷いた。
「疲れたでしょう?今日はもう休んだほうがいいわ」
< 11 / 25 >

この作品をシェア

pagetop