MYSTIQUE
「由利先生⋯⋯」
「うん?」
由利先生と呼ばれた職員は、口数少ない一郎の言葉に耳を傾けようとする。
「やっぱり、いいです。何でもありません」
「あのね、一郎くん。知ってるとは思うけど、ここは孤児院ではないし、実のお母さんが居るからって、出ていく必要はないのよ?あなたにはここで暮らす権利があるから」
「はい⋯⋯ありがとうございます」
会釈すると、一郎は戻っていく。
「あんなに可愛い息子を何度も捨てる気がしれないわね⋯⋯」
由利先生は、一郎の後ろ姿を見送りながら、ポツリと呟いた。
消灯時間は過ぎ、同室の少年がイビキをかき始めても、一郎はなかなか眠れずにいた。
(実の母親より、由利先生のほうが遥かに優しい。先生が言ってくれたように、ここに残れば衣食住に困らないし、高校にも行かせてもらえる。だけど⋯⋯これ以上、ここには居られないことは、自分が一番よく判ってる⋯⋯悲しいけれど⋯⋯)
「うん?」
由利先生と呼ばれた職員は、口数少ない一郎の言葉に耳を傾けようとする。
「やっぱり、いいです。何でもありません」
「あのね、一郎くん。知ってるとは思うけど、ここは孤児院ではないし、実のお母さんが居るからって、出ていく必要はないのよ?あなたにはここで暮らす権利があるから」
「はい⋯⋯ありがとうございます」
会釈すると、一郎は戻っていく。
「あんなに可愛い息子を何度も捨てる気がしれないわね⋯⋯」
由利先生は、一郎の後ろ姿を見送りながら、ポツリと呟いた。
消灯時間は過ぎ、同室の少年がイビキをかき始めても、一郎はなかなか眠れずにいた。
(実の母親より、由利先生のほうが遥かに優しい。先生が言ってくれたように、ここに残れば衣食住に困らないし、高校にも行かせてもらえる。だけど⋯⋯これ以上、ここには居られないことは、自分が一番よく判ってる⋯⋯悲しいけれど⋯⋯)