MYSTIQUE
 約一週間が経った頃、一郎の母親は再び施設にやって来た。
「一郎。ママと一緒に帰りましょうね」
 母親は、誰が見てもわかるほど露骨な作り笑いを顔に貼り付けて、そう言う。
 由利先生が、それは認められないと言いかけたところ、
「うん。帰るよ⋯⋯」
 一郎のまさかの言葉に、由利先生はギョッとした。
「ちょっと、一郎くん⋯⋯!あ、鈴木さんは少々お待ち下さい」
 由利先生は、一郎の手を引いて面談室を出た。大きな舌打ちを背中で聞きながら。
「一郎くん⋯⋯どうして?」
 小声で問われ、一郎は、
「母は⋯⋯淋しくて仕方ないんだと思います。また、男の人と別れたから、こうやって迎えに来たわけですし⋯⋯」
「ええ。それは知ってるわ。でも、お母さんが男の人のことで満たされない心を埋めるのは、子供の役割じゃない」
「はい⋯⋯でも、なんだかんだで結局、互いのことだけが、たった一人の肉親ですから」
< 13 / 25 >

この作品をシェア

pagetop