MYSTIQUE
 そう言われてしまえば、由利先生は何も言い返すことが出来ない。
「本当にそれでいいのね⋯⋯?何度も言ったけど、あなたにはここで暮らす権利があるのよ」
「はい⋯⋯。今まで、本当にありがとうございました。そう言って、もう何度も出たり入ったりしてますけどね⋯⋯恥ずかしい限りです」
「あなたは何も悪くない!ねぇ、約束して?もし、またお母さんとの間でトラブルがあったら、必ず連絡するって」
「本当にありがとうございます」
 そう言って、一郎は深々と頭を下げた。

 後日、母親が一郎の手を強引に引っ張りながら、施設から出て行くのを、由利先生は悲しい瞳で見ていた。
(本当なら、実の母親と一緒に暮らせることは喜ばしいことなのに、不安しか感じられないわ⋯⋯)
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