MYSTIQUE
Boy
 生活保護とは、本当に困っている人々の為のセーフティネットであり、不正受給をする者など、実際は殆ど居ない。
 しかし、ほんの僅かな不正受給者の為に、その風当たりが強くなっているのが現実。
「よかったよ。お前が戻ってきてくれて」
 西陽の当たる部屋は、タバコの煙が充満している。
 一郎は、咳き込みながら、窓を開けた。
 母親が一郎をしつこく迎えに来た狙いは、生活保護の母子加算の為。90年代の時点では、まだ母子加算というものがあった。
 窓の外を見下ろす一郎の瞳には涙が浮かんでいたが、母親はそれに気付くはずもない。
 一郎は、もともとやせっぽっちではあったが、施設に居た頃は、まだきちんと栄養が摂れていた。
 母子加算があろうと、母親は月の半ばで保護費を使い果たしてしまう。
 ケースワーカーの指導も無視し続けた為、保護を打ち切られた。
 激怒した母親は、
「お前が稼いでこい!仮にも男だろうが!」
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