クズ御曹司の執着愛
伊織は、迷いなく言い返した。
「自己中で、傲慢で、強引でしょ?」
「……それだけか?」
その問いに、伊織は一瞬、言葉を失う。
だがすぐに視線を逸らし、吐き捨てるように続けた。
「いいから、こんなやり取りしなくて。……私、一人で帰れるから。
早く行きなさいよ」
忠相は深く息を吐き、片手で額を押さえた。
「……まったく」
心底呆れたように、頭を抱える。
(どうして、ここまで言っても気づかない……伊織)
伊織は怪訝そうに、その横顔を覗き込んだ。
「……なあに? 具合でも悪くなったの?」
その問いに、忠相はさらに深いため息をつく。
「……本当に、お前は」
苛立ちと呆れ、そしてどうしようもない愛しさが入り混じった声だった。
伊織はますます首をかしげる。
「なによ、その言い方」
忠相は額から手を下ろし、じっと彼女を見据える。
(……鈍いにもほどがある。だが、それが――)
立ち上がると、伊織の腕を軽く引いて立たせた。
「案内する」
キッチン、書斎、バスルーム、そして客間。
一通り見せ終え、忠相は淡々と言う。
「お前は、この部屋を使えばいい」
「……わかった」
伊織は小さくうなずいたものの、部屋を見回して首をかしげる。
「お布団はあるかしら? ベッドが見当たらないけど」
「ベッドなら、こっちだ」
忠相は再び彼女の手を取り、寝室へと導いた。
そこに鎮座していたのは、広々としたダブルベッド。
伊織は思わず足を止め、振り返る。
「……ここって、忠相の寝室でしょ?
私が使ったら、あなたはどこで寝るの? ソファー?」
忠相は視線を逸らさず、淡々と答えた。
「俺も、ここで寝る」
「……え?」
「お前と一緒にだ」
あまりにさらりと言われて、伊織の心臓が跳ねる。
「な、何言ってるのよ!? 絶対にイヤ!
私は客間で十分よ!」
慌てて首を振り、拒絶する。
だが忠相は微動だにせず、静かな目で伊織を見据えた。
「拒否権はない」
「はあ!? どうしてよ!」
「忘れたのか?」
忠相の口元に、悪魔めいた笑みが浮かぶ。
「お前は、俺を蹴り上げた」
「そればっかり……ずるいわ」
伊織は悔しさに唇を噛む。
忠相は容赦なく、冷静に続けた。
「俺たちの婚約は、社内でまもなく発表される。
そうなれば、詮索好きの母親が、必ずここに来る」
「……!」
伊織は、言葉を失った。
「そのとき、寝室が別だったら……どう思われる?」
忠相の声は、感情を排したまま静かに落ちていく。
「俺はな。起こり得る疑念は、最初から徹底して潰す男だ」
その理屈は恐ろしいほど冷徹で、
伊織に与えられた逃げ道を、きれいに塞いでいた。
胸の奥に、息苦しいほどの圧迫感が広がる。
伊織は一度、深く息を整えた。
そして、できるだけ穏やかな声を作る。
「……忠相が、完璧に計画を遂行していく男だってことは、もうわかったわ」
一拍置いて、続ける。
「覚悟を決めた以上、協力する」
「協力、ね」
忠相が片眉を上げる。
「うん。でも……私たち、もう四十代でしょ?
人生短いんだから。何の事情があるのか知らないけど……」
言いにくそうに、しかしはっきりと言った。
「さっき言っていた、その女性と……早く一緒になりなさいよ」
次の瞬間。
忠相は一瞬、目を見開き――
そして、腹を抱えて笑い出した。
「ははっ……わっはっは!」
伊織は頬を赤らめ、思わず睨みつける。
「……何がおかしいのよ」
忠相はまだ笑みを残したまま、真っすぐに言い放った。
「いや。ここまで伊織が鈍感だとは、正直思わなかった」
そのまま、一歩も引かない声で続ける。
「そうだな。なら――せいぜい、全力で協力してくれ」
冗談めかした響きの奥に、
一切の逃げ道を許さない圧が、はっきりと込められていた。
「自己中で、傲慢で、強引でしょ?」
「……それだけか?」
その問いに、伊織は一瞬、言葉を失う。
だがすぐに視線を逸らし、吐き捨てるように続けた。
「いいから、こんなやり取りしなくて。……私、一人で帰れるから。
早く行きなさいよ」
忠相は深く息を吐き、片手で額を押さえた。
「……まったく」
心底呆れたように、頭を抱える。
(どうして、ここまで言っても気づかない……伊織)
伊織は怪訝そうに、その横顔を覗き込んだ。
「……なあに? 具合でも悪くなったの?」
その問いに、忠相はさらに深いため息をつく。
「……本当に、お前は」
苛立ちと呆れ、そしてどうしようもない愛しさが入り混じった声だった。
伊織はますます首をかしげる。
「なによ、その言い方」
忠相は額から手を下ろし、じっと彼女を見据える。
(……鈍いにもほどがある。だが、それが――)
立ち上がると、伊織の腕を軽く引いて立たせた。
「案内する」
キッチン、書斎、バスルーム、そして客間。
一通り見せ終え、忠相は淡々と言う。
「お前は、この部屋を使えばいい」
「……わかった」
伊織は小さくうなずいたものの、部屋を見回して首をかしげる。
「お布団はあるかしら? ベッドが見当たらないけど」
「ベッドなら、こっちだ」
忠相は再び彼女の手を取り、寝室へと導いた。
そこに鎮座していたのは、広々としたダブルベッド。
伊織は思わず足を止め、振り返る。
「……ここって、忠相の寝室でしょ?
私が使ったら、あなたはどこで寝るの? ソファー?」
忠相は視線を逸らさず、淡々と答えた。
「俺も、ここで寝る」
「……え?」
「お前と一緒にだ」
あまりにさらりと言われて、伊織の心臓が跳ねる。
「な、何言ってるのよ!? 絶対にイヤ!
私は客間で十分よ!」
慌てて首を振り、拒絶する。
だが忠相は微動だにせず、静かな目で伊織を見据えた。
「拒否権はない」
「はあ!? どうしてよ!」
「忘れたのか?」
忠相の口元に、悪魔めいた笑みが浮かぶ。
「お前は、俺を蹴り上げた」
「そればっかり……ずるいわ」
伊織は悔しさに唇を噛む。
忠相は容赦なく、冷静に続けた。
「俺たちの婚約は、社内でまもなく発表される。
そうなれば、詮索好きの母親が、必ずここに来る」
「……!」
伊織は、言葉を失った。
「そのとき、寝室が別だったら……どう思われる?」
忠相の声は、感情を排したまま静かに落ちていく。
「俺はな。起こり得る疑念は、最初から徹底して潰す男だ」
その理屈は恐ろしいほど冷徹で、
伊織に与えられた逃げ道を、きれいに塞いでいた。
胸の奥に、息苦しいほどの圧迫感が広がる。
伊織は一度、深く息を整えた。
そして、できるだけ穏やかな声を作る。
「……忠相が、完璧に計画を遂行していく男だってことは、もうわかったわ」
一拍置いて、続ける。
「覚悟を決めた以上、協力する」
「協力、ね」
忠相が片眉を上げる。
「うん。でも……私たち、もう四十代でしょ?
人生短いんだから。何の事情があるのか知らないけど……」
言いにくそうに、しかしはっきりと言った。
「さっき言っていた、その女性と……早く一緒になりなさいよ」
次の瞬間。
忠相は一瞬、目を見開き――
そして、腹を抱えて笑い出した。
「ははっ……わっはっは!」
伊織は頬を赤らめ、思わず睨みつける。
「……何がおかしいのよ」
忠相はまだ笑みを残したまま、真っすぐに言い放った。
「いや。ここまで伊織が鈍感だとは、正直思わなかった」
そのまま、一歩も引かない声で続ける。
「そうだな。なら――せいぜい、全力で協力してくれ」
冗談めかした響きの奥に、
一切の逃げ道を許さない圧が、はっきりと込められていた。