クズ御曹司の執着愛
鮭のムニエルを食べ終え、伊織はナプキンで口元をそっと押さえた。
しばらく迷ってから、おずおずと口を開く。
「ねえ……あの着物、どうすればいいの?」
忠相がフォークを置き、目を細める。
「どうすれば、とは?」
「クリーニングに出して、返却するっていう意味よ」
「返却?」
忠相は短く笑い、首を横に振った。
「あれは、お前のだ」
「……え?」
「俺が伊織のために誂えた。帯も、小物も、全部だ」
言葉を失い、伊織は視線を落とす。
胸の奥が、じんわりと熱を帯びていく。
沈黙する彼女を見て、忠相は声を少し和らげた。
「あれなら……今後も着られるだろう?」
それでも伊織は黙ったままだった。
忠相がわずかに眉をひそめる。
「……気に入らなかったか?」
「ありがとう」
伊織は静かに顔を上げる。
「好きな色と柄で……すごく素敵な着物だわ」
「いきなり素直になったな」
「この状況から、今は逃げられないから」
伊織は小さく笑った。
「忠相の“婚約者”でいる時間を、楽しむことにする」
「それはよかった」
その一言に、胸の奥がきゅっと熱くなる。
しばらくして、伊織がふと思い出したように言った。
「……あの白い芍薬が用意されていたのは、驚いたわ」
「白い芍薬?」
「着物を着てたとき、髪に挿してくれたでしょ。あの一輪」
甘い香りが蘇り、無意識に耳元へ指が触れる。
「そこまで準備してくれるなんて、思わなかった」
忠相の瞳が、わずかに揺れた。
「伊織の好きな花だろう?」
「うん……正確には、母が好きだった花。亡くなった母の」
「白い芍薬には、“幸せな結婚”という意味がある」
「……どうして、そんなことまで知ってるの?」
忠相は赤ワインを満たしたグラスを差し出しながら、目を細めた。
「覚えてないのか?」
「昔、合宿で話した。お前が言ったんだ。
“白地の束熨斗柄の着物がいい”って」
記憶の底から、夏の夜風と焚き火の匂いが立ちのぼる。
炎の向こうで笑っていた彼の横顔。
あのときの何気ない憧れを、彼は拾い上げ、こうして現実にしている。
「……どうして、そこまで?」
「さあな」
忠相は口角だけで笑い、低く囁く。
「いい加減、自分の頭で考えろ」
デザートに運ばれてきたガトーショコラを、伊織は小さなフォークで口に運んだ。
「……美味しかった。満足。ごちそうさまでした」
赤ワインをひと口含み、微笑む。
「でも、毎晩こんなに美味しいもの食べてたら、太りそう」
「大丈夫だろ」
「……あ、もう太ってるって言いたいの?」
「違う」
忠相は真剣な目で見つめ、ゆっくり言った。
「伊織が太ろうが、俺は構わない」
「じゃあ、痩せたら?」
「痩せなくていい」
「どうして?」
椅子を引き、彼女の隣に腰を下ろす。
耳元で低く囁いた。
「……抱き心地が悪くなる」
その声に、伊織の頬が熱を帯びる。
「……さすが忠相。そういうこと、さらっと言うのよね」
「クズ男って呼ぶのは、やめたのか?」
伊織はグラスを置き、静かにうなずいた。
「うん。今の忠相には、ふさわしくないと思う」
意外そうに、忠相の瞳が揺れる。
「……じゃあ、今の俺を何と呼ぶ?」
少し考えてから、伊織はいたずらっぽく微笑んだ。
「……俺様な男、かな」
一瞬、忠相の目が鋭く光る。
「そうか」
「なら、伊織の言う通りの男でいよう」
次の瞬間、大きな手が後頭部を掴んだ。
抗う間もなく、唇を奪われる。
「……っ」
深く、濃く、逃げ場のない口づけ。
胸の奥が焼けつくように熱くなる。
やがて唇が離れ、息の乱れた伊織の耳元で、低く囁かれた。
「……伊織。愛している」
その声はあまりにも近く、
伊織の心臓を強く、確かに揺さぶった。
「忠相が……私を、愛しているの?」
伊織は震える声で問いかけた。
唇の熱がまだ残り、胸は苦しいほどに高鳴っている。
忠相は迷いなくうなずき、真っ直ぐに彼女を見つめた。
「ああ。ずっと……お前だけを愛してきた」
その言葉は低く深く、けれど今までにないやさしさを含んでいた。
彼の口元に浮かんだ微笑みが、伊織の心の奥に温かく染み込んでいく。
「……信じられない」
心からの驚きとともに、伊織の声が震える。
忠相は彼女の頬を包み込み、目を逸らさせないまま静かに言った。
「何度でも言う。伊織、愛している。お前だけを愛してきたし…これからも愛していく」
その瞳には一点の曇りもなく、揺るぎない熱だけが宿っていた。
「だから……結婚したいの?」
伊織は息を詰めながら問いかけた。
忠相の返答は迷いがなかった。
「ああ。お前しかいないんだ、伊織」
そう言うと、彼は伊織を強く抱き寄せ、ローブ越しにその柔らかなふくらみに大きな手を添えた。
「……っ」
伊織の体が小さく震える。
忠相は耳元で囁く代わりに、彼女の首筋へとくちづけを落とした。
やさしく、何度も、確かめるように。
「……忠相……」
くすぐったさと熱に戸惑いながらも、伊織は逆らわなかった。
先ほどから投げかけられる言葉。
「愛している」「お前しかいない」「ずっと……お前だけを愛してきた」
その一つひとつを、心の中で何度も咀嚼する。
「……忠相、待って。ちょっと……混乱しているから」
息を整えるように言いながら、伊織は彼の腕からそっと離れる。
立ち上がった瞬間、ローブの裾が揺れ、下に何も身につけていない滑らかな脚線美があらわになった。
「……っ」
忠相の瞳が一気に鋭さを帯びる。
じっとその姿を見据える眼差しには、雄としての本能的な欲望が宿っていた。
伊織は思わず裾を押さえ、視線を逸らす。
「……そんな目で見ないで」
忠相は低く笑い、肩をすくめる。
「これでも理性と戦っているんだ」
深いため息をつくと、彼は立ち上がりバスルームへ向かう。
「シャワーを浴びてくる。……伊織、ベッドの上の箱はお前へのプレゼントだ」
「え? まだあるの?」
驚きと呆れを混ぜた声で、伊織は振り返った。
「……もう、もらいすぎてお返しができないわよ」
忠相は扉に手をかけながら、口角を上げる。
「お前しかできないお返しがあるだろう?」
「……なによ、それ」
ため息まじりに問い返す伊織に、彼は振り返りざま真っ直ぐに言い放った。
「……もう逃がさない。俺を全部受け止めろ」
低く熱を帯びた声が残響のように部屋に落ちた。
しばらく迷ってから、おずおずと口を開く。
「ねえ……あの着物、どうすればいいの?」
忠相がフォークを置き、目を細める。
「どうすれば、とは?」
「クリーニングに出して、返却するっていう意味よ」
「返却?」
忠相は短く笑い、首を横に振った。
「あれは、お前のだ」
「……え?」
「俺が伊織のために誂えた。帯も、小物も、全部だ」
言葉を失い、伊織は視線を落とす。
胸の奥が、じんわりと熱を帯びていく。
沈黙する彼女を見て、忠相は声を少し和らげた。
「あれなら……今後も着られるだろう?」
それでも伊織は黙ったままだった。
忠相がわずかに眉をひそめる。
「……気に入らなかったか?」
「ありがとう」
伊織は静かに顔を上げる。
「好きな色と柄で……すごく素敵な着物だわ」
「いきなり素直になったな」
「この状況から、今は逃げられないから」
伊織は小さく笑った。
「忠相の“婚約者”でいる時間を、楽しむことにする」
「それはよかった」
その一言に、胸の奥がきゅっと熱くなる。
しばらくして、伊織がふと思い出したように言った。
「……あの白い芍薬が用意されていたのは、驚いたわ」
「白い芍薬?」
「着物を着てたとき、髪に挿してくれたでしょ。あの一輪」
甘い香りが蘇り、無意識に耳元へ指が触れる。
「そこまで準備してくれるなんて、思わなかった」
忠相の瞳が、わずかに揺れた。
「伊織の好きな花だろう?」
「うん……正確には、母が好きだった花。亡くなった母の」
「白い芍薬には、“幸せな結婚”という意味がある」
「……どうして、そんなことまで知ってるの?」
忠相は赤ワインを満たしたグラスを差し出しながら、目を細めた。
「覚えてないのか?」
「昔、合宿で話した。お前が言ったんだ。
“白地の束熨斗柄の着物がいい”って」
記憶の底から、夏の夜風と焚き火の匂いが立ちのぼる。
炎の向こうで笑っていた彼の横顔。
あのときの何気ない憧れを、彼は拾い上げ、こうして現実にしている。
「……どうして、そこまで?」
「さあな」
忠相は口角だけで笑い、低く囁く。
「いい加減、自分の頭で考えろ」
デザートに運ばれてきたガトーショコラを、伊織は小さなフォークで口に運んだ。
「……美味しかった。満足。ごちそうさまでした」
赤ワインをひと口含み、微笑む。
「でも、毎晩こんなに美味しいもの食べてたら、太りそう」
「大丈夫だろ」
「……あ、もう太ってるって言いたいの?」
「違う」
忠相は真剣な目で見つめ、ゆっくり言った。
「伊織が太ろうが、俺は構わない」
「じゃあ、痩せたら?」
「痩せなくていい」
「どうして?」
椅子を引き、彼女の隣に腰を下ろす。
耳元で低く囁いた。
「……抱き心地が悪くなる」
その声に、伊織の頬が熱を帯びる。
「……さすが忠相。そういうこと、さらっと言うのよね」
「クズ男って呼ぶのは、やめたのか?」
伊織はグラスを置き、静かにうなずいた。
「うん。今の忠相には、ふさわしくないと思う」
意外そうに、忠相の瞳が揺れる。
「……じゃあ、今の俺を何と呼ぶ?」
少し考えてから、伊織はいたずらっぽく微笑んだ。
「……俺様な男、かな」
一瞬、忠相の目が鋭く光る。
「そうか」
「なら、伊織の言う通りの男でいよう」
次の瞬間、大きな手が後頭部を掴んだ。
抗う間もなく、唇を奪われる。
「……っ」
深く、濃く、逃げ場のない口づけ。
胸の奥が焼けつくように熱くなる。
やがて唇が離れ、息の乱れた伊織の耳元で、低く囁かれた。
「……伊織。愛している」
その声はあまりにも近く、
伊織の心臓を強く、確かに揺さぶった。
「忠相が……私を、愛しているの?」
伊織は震える声で問いかけた。
唇の熱がまだ残り、胸は苦しいほどに高鳴っている。
忠相は迷いなくうなずき、真っ直ぐに彼女を見つめた。
「ああ。ずっと……お前だけを愛してきた」
その言葉は低く深く、けれど今までにないやさしさを含んでいた。
彼の口元に浮かんだ微笑みが、伊織の心の奥に温かく染み込んでいく。
「……信じられない」
心からの驚きとともに、伊織の声が震える。
忠相は彼女の頬を包み込み、目を逸らさせないまま静かに言った。
「何度でも言う。伊織、愛している。お前だけを愛してきたし…これからも愛していく」
その瞳には一点の曇りもなく、揺るぎない熱だけが宿っていた。
「だから……結婚したいの?」
伊織は息を詰めながら問いかけた。
忠相の返答は迷いがなかった。
「ああ。お前しかいないんだ、伊織」
そう言うと、彼は伊織を強く抱き寄せ、ローブ越しにその柔らかなふくらみに大きな手を添えた。
「……っ」
伊織の体が小さく震える。
忠相は耳元で囁く代わりに、彼女の首筋へとくちづけを落とした。
やさしく、何度も、確かめるように。
「……忠相……」
くすぐったさと熱に戸惑いながらも、伊織は逆らわなかった。
先ほどから投げかけられる言葉。
「愛している」「お前しかいない」「ずっと……お前だけを愛してきた」
その一つひとつを、心の中で何度も咀嚼する。
「……忠相、待って。ちょっと……混乱しているから」
息を整えるように言いながら、伊織は彼の腕からそっと離れる。
立ち上がった瞬間、ローブの裾が揺れ、下に何も身につけていない滑らかな脚線美があらわになった。
「……っ」
忠相の瞳が一気に鋭さを帯びる。
じっとその姿を見据える眼差しには、雄としての本能的な欲望が宿っていた。
伊織は思わず裾を押さえ、視線を逸らす。
「……そんな目で見ないで」
忠相は低く笑い、肩をすくめる。
「これでも理性と戦っているんだ」
深いため息をつくと、彼は立ち上がりバスルームへ向かう。
「シャワーを浴びてくる。……伊織、ベッドの上の箱はお前へのプレゼントだ」
「え? まだあるの?」
驚きと呆れを混ぜた声で、伊織は振り返った。
「……もう、もらいすぎてお返しができないわよ」
忠相は扉に手をかけながら、口角を上げる。
「お前しかできないお返しがあるだろう?」
「……なによ、それ」
ため息まじりに問い返す伊織に、彼は振り返りざま真っ直ぐに言い放った。
「……もう逃がさない。俺を全部受け止めろ」
低く熱を帯びた声が残響のように部屋に落ちた。