クズ御曹司の執着愛
翌朝、滝沢ホールディングスと大塚デザイン事務所から、二人が正式に婚約したことが発表された。
社内報には並んで微笑む写真が掲載され、祝福の声が広がっていく。
週刊誌の発売が迫っているなどとは思えないほど、社内は穏やかで明るい空気に包まれていた。
それは、これから訪れる嵐を一時忘れさせる、温かな光景だった。
――だが。
発売日は、明日。
どんな言葉が、どんな悪意が、紙面に踊るのか。
それを正確に知っているのは、忠相だけだった。
彼はただ一つ、固く誓っていた。
伊織の笑顔だけは、何があっても守り抜く。
業務を終えた夜遅く、忠相は伊織を連れ、真樹の自宅を訪れた。
扉を開けると、リビングには真樹と美和子が待っていた。
真樹は立ち上がり、いつもの厳しさを和らげて口を開く。
「……まずは二人とも、婚約おめでとう」
そう言ってから、伊織へ視線を移し、口元を緩める。
「森田さん……いや、もう忠相の嫁さんだな」
「これからは、伊織さんと呼ばせてもらう」
伊織は思わず背筋を正し、深く頭を下げた。
「滝沢会長、美和子夫人、ありがとうございます。これからも、どうぞよろしくお願いいたします」
美和子もやさしく微笑み、そっと言葉を添える。
「こちらこそ。伊織さん、家族になってくれて嬉しいわ」
胸が熱くなり、伊織はもう一度、丁寧に頭を下げた。
「……ありがとうございます」
和やかな空気が広がった、その直後だった。
真樹が、ふと表情を引き締める。
「……忠相」
「伊織さんには、例の件は伝えてあるんだな?」
伊織の呼吸が、一瞬止まる。
視線が自然と忠相へ向かう。
忠相は微塵も動じず、短く答えた。
「ああ。すべて話してある」
真樹は組んでいた手をほどき、背もたれから身を起こした。
「……明日発売の週刊誌に載る」
「忠相と、伊織さんのことだ」
伊織は指先をぎゅっと握りしめる。
隣で忠相が、静かに頷いた。
「内容は確認している」
「伊織さんを“強欲な女”と呼び、忠相を“冷血漢”に仕立て上げる」
「事実とは無関係な尾ひれをつけ、好き勝手に書き立てている」
真樹の声は冷静だったが、その奥には抑えきれない苛立ちがあった。
美和子が、心配そうに伊織へ視線を向ける。
「……そんな、根も葉もない話を」
「だが」
真樹は言葉を切り、はっきりと続ける。
「記事は記事だ。世間は活字に踊らされる」
「明日以降、会社の内外で影響が出るのは避けられない」
重い沈黙が、リビングを包んだ。
その沈黙を破ったのは、忠相だった。
「だからこそ、入籍を早めたい」
真樹は目を細め、ゆっくりと頷く。
「……ただし、入籍の有無に関わらず」
「伊織さんの立場が苦しくなる可能性は高い」
その視線が、まっすぐ伊織に向けられる。
「君は、想像もしなかったことに直面する」
「弁明の場も与えられず、身に覚えのない罪で責められることもあるだろう」
伊織は深く息を吸い、落ち着いた表情で真樹を見返した。
「……そうですね」
「したい仕事ができなくなるかもしれません。職を失う可能性も、考えています」
凛とした声に、美和子が小さく目を見張った。
真樹は静かに続ける。
「だが、君は一人で背負う必要はない」
「忠相だけではない。滝沢ホールディングスとして、家族として、君を守る」
一拍置き、穏やかに付け加える。
「もちろん、美和子もだ」
伊織は背筋を伸ばし、真っ直ぐに頭を下げた。
「……ありがとうございます」
その声は穏やかで、しかし確かな強さを宿していた。
社内報には並んで微笑む写真が掲載され、祝福の声が広がっていく。
週刊誌の発売が迫っているなどとは思えないほど、社内は穏やかで明るい空気に包まれていた。
それは、これから訪れる嵐を一時忘れさせる、温かな光景だった。
――だが。
発売日は、明日。
どんな言葉が、どんな悪意が、紙面に踊るのか。
それを正確に知っているのは、忠相だけだった。
彼はただ一つ、固く誓っていた。
伊織の笑顔だけは、何があっても守り抜く。
業務を終えた夜遅く、忠相は伊織を連れ、真樹の自宅を訪れた。
扉を開けると、リビングには真樹と美和子が待っていた。
真樹は立ち上がり、いつもの厳しさを和らげて口を開く。
「……まずは二人とも、婚約おめでとう」
そう言ってから、伊織へ視線を移し、口元を緩める。
「森田さん……いや、もう忠相の嫁さんだな」
「これからは、伊織さんと呼ばせてもらう」
伊織は思わず背筋を正し、深く頭を下げた。
「滝沢会長、美和子夫人、ありがとうございます。これからも、どうぞよろしくお願いいたします」
美和子もやさしく微笑み、そっと言葉を添える。
「こちらこそ。伊織さん、家族になってくれて嬉しいわ」
胸が熱くなり、伊織はもう一度、丁寧に頭を下げた。
「……ありがとうございます」
和やかな空気が広がった、その直後だった。
真樹が、ふと表情を引き締める。
「……忠相」
「伊織さんには、例の件は伝えてあるんだな?」
伊織の呼吸が、一瞬止まる。
視線が自然と忠相へ向かう。
忠相は微塵も動じず、短く答えた。
「ああ。すべて話してある」
真樹は組んでいた手をほどき、背もたれから身を起こした。
「……明日発売の週刊誌に載る」
「忠相と、伊織さんのことだ」
伊織は指先をぎゅっと握りしめる。
隣で忠相が、静かに頷いた。
「内容は確認している」
「伊織さんを“強欲な女”と呼び、忠相を“冷血漢”に仕立て上げる」
「事実とは無関係な尾ひれをつけ、好き勝手に書き立てている」
真樹の声は冷静だったが、その奥には抑えきれない苛立ちがあった。
美和子が、心配そうに伊織へ視線を向ける。
「……そんな、根も葉もない話を」
「だが」
真樹は言葉を切り、はっきりと続ける。
「記事は記事だ。世間は活字に踊らされる」
「明日以降、会社の内外で影響が出るのは避けられない」
重い沈黙が、リビングを包んだ。
その沈黙を破ったのは、忠相だった。
「だからこそ、入籍を早めたい」
真樹は目を細め、ゆっくりと頷く。
「……ただし、入籍の有無に関わらず」
「伊織さんの立場が苦しくなる可能性は高い」
その視線が、まっすぐ伊織に向けられる。
「君は、想像もしなかったことに直面する」
「弁明の場も与えられず、身に覚えのない罪で責められることもあるだろう」
伊織は深く息を吸い、落ち着いた表情で真樹を見返した。
「……そうですね」
「したい仕事ができなくなるかもしれません。職を失う可能性も、考えています」
凛とした声に、美和子が小さく目を見張った。
真樹は静かに続ける。
「だが、君は一人で背負う必要はない」
「忠相だけではない。滝沢ホールディングスとして、家族として、君を守る」
一拍置き、穏やかに付け加える。
「もちろん、美和子もだ」
伊織は背筋を伸ばし、真っ直ぐに頭を下げた。
「……ありがとうございます」
その声は穏やかで、しかし確かな強さを宿していた。