クズ御曹司の執着愛
地下道を抜けると、すぐに専用エレベーターが待っていた。
忠相がカードキーをかざすと、低く抑えた電子音が鳴り、扉が静かに開く。
二人は言葉を交わすことなく乗り込んだ。
エレベーターは地下から一気に最上階へと上昇していく。
密閉された空間に、微かな駆動音だけが響いていた。
やがて扉が開く。
そこはすでに、真樹と美和子の住むフロアだった。
広いリビングには、真樹と美和子の姿だけでなく、
龍之介と美咲も先に揃っている。
龍之介は腕を組み、感情を読ませぬまま伊織と忠相を見据えていた。
その隣で、美咲はやや強張った表情のまま、伊織に小さく会釈を送る。
迎え入れるというより、待ち受けていた――
そんな空気が、部屋全体を満たしている。
沈黙を破ったのは、真樹だった。
「今夜は、君たちにどうしても話しておかねばならないことがある」
その声が落ちた瞬間、部屋の空気がさらに重く張り詰める。
真樹は一拍置き、ゆっくりと視線を巡らせたあと、
まっすぐに伊織を見据えた。
「……伊織さん。できるだけ、外出を控えてもらう。
仕事も在宅で行ってほしい」
重い沈黙が、部屋に落ちた。
伊織は小さく息を吸い込み、間を置かずに答える。
「はい。……わかりました」
その声音に揺らぎはなかった。
覚悟を決めた者だけが持つ、静かな強さがそこにあった。
忠相が横目で伊織を見やり、真樹はゆっくりと頷く。
真樹は声の調子を変えず、言葉を継いだ。
「外部との連絡も、できるだけ避けてくれ。
……君が勤めている会社も含めて、だ」
伊織はわずかに眉をひそめる。
「……先ほど、大塚社長と話したばかりですが」
「何と言われた?」
「しばらく、こちらには来ないでくれと」
真樹は一度頷き、低く告げた。
「今後、大塚社長との連絡は、我々が引き受ける」
「え……?」
伊織の目が、思わず見開かれる。
「大塚社長にも、すでに了承を得ている」
「そうですか……」
伊織は視線を落とし、唇を噛みしめた。
守られていると理解しながらも、仕事と居場所を切り離される感覚が胸に残る。
真樹は一瞬だけ目を閉じ、そして静かに言葉を重ねた。
「……大塚社長は、どうやら君に伝えていないようだな」
伊織の胸を、嫌な予感が走り抜ける。
「何を、ですか?」
張り詰めた空気の中、その問いだけが静かに宙に浮かんでいた。
真樹の声は、低く重かった。
「今回の件で……彼の会社の大口契約が、立て続けにキャンセルされている」
「そんな……!」
伊織の顔から、みるみる血の気が引いていく。
「どうして……?」
真樹は視線を逸らさず、伊織を真正面から見据えた。
「週刊誌の記者に、君の素性が割れている。
もちろん、勤務先もだ」
伊織は愕然とし、思わず胸元に手を当てた。
呼吸が一瞬、詰まる。
真樹の声は、さらに低く沈む。
「……掲載された、忠相と佐藤の娘の写真も――偶然ではない」
伊織は、はっと顔を上げた。
「どういうことですか?」
真樹は一度、忠相に視線を移す。
それから、そこにいる全員へ向けて、淡々と言葉を続けた。
「あのレストランに勤めていた従業員の一人が、
忠相の予約日時を佐藤に流していた」
静かな断定だった。
「つまり――写真を撮られるように、最初から仕組まれていたということだ」
言葉が落ちた瞬間、
部屋の空気が、さらに一段深く沈み込んだ。
伊織の胸が、すっと冷えた。
「……じゃあ、最初から……」
言葉の続きを口にする前に、忠相が低く、苦々しい声で応じる。
「そうだ。偶然を装った罠だ」
忠相は腕を組んだまま、短く息を吐き、鋭く言い捨てた。
「内部にまで手を伸ばすとは……」
その一言に、事態の根深さが滲む。
美咲は伊織の横顔をそっと見つめ、小さく眉を寄せた。
かける言葉を探しながらも、何も言えずにいる。
伊織は俯いたまま、ただ静かに拳を握りしめていた。
怒りでも涙でもない――
感情が凍りついたような沈黙が、彼女の内側に広がっていく。
その沈黙こそが、今夜の重さを何よりも雄弁に物語っていた。
忠相がカードキーをかざすと、低く抑えた電子音が鳴り、扉が静かに開く。
二人は言葉を交わすことなく乗り込んだ。
エレベーターは地下から一気に最上階へと上昇していく。
密閉された空間に、微かな駆動音だけが響いていた。
やがて扉が開く。
そこはすでに、真樹と美和子の住むフロアだった。
広いリビングには、真樹と美和子の姿だけでなく、
龍之介と美咲も先に揃っている。
龍之介は腕を組み、感情を読ませぬまま伊織と忠相を見据えていた。
その隣で、美咲はやや強張った表情のまま、伊織に小さく会釈を送る。
迎え入れるというより、待ち受けていた――
そんな空気が、部屋全体を満たしている。
沈黙を破ったのは、真樹だった。
「今夜は、君たちにどうしても話しておかねばならないことがある」
その声が落ちた瞬間、部屋の空気がさらに重く張り詰める。
真樹は一拍置き、ゆっくりと視線を巡らせたあと、
まっすぐに伊織を見据えた。
「……伊織さん。できるだけ、外出を控えてもらう。
仕事も在宅で行ってほしい」
重い沈黙が、部屋に落ちた。
伊織は小さく息を吸い込み、間を置かずに答える。
「はい。……わかりました」
その声音に揺らぎはなかった。
覚悟を決めた者だけが持つ、静かな強さがそこにあった。
忠相が横目で伊織を見やり、真樹はゆっくりと頷く。
真樹は声の調子を変えず、言葉を継いだ。
「外部との連絡も、できるだけ避けてくれ。
……君が勤めている会社も含めて、だ」
伊織はわずかに眉をひそめる。
「……先ほど、大塚社長と話したばかりですが」
「何と言われた?」
「しばらく、こちらには来ないでくれと」
真樹は一度頷き、低く告げた。
「今後、大塚社長との連絡は、我々が引き受ける」
「え……?」
伊織の目が、思わず見開かれる。
「大塚社長にも、すでに了承を得ている」
「そうですか……」
伊織は視線を落とし、唇を噛みしめた。
守られていると理解しながらも、仕事と居場所を切り離される感覚が胸に残る。
真樹は一瞬だけ目を閉じ、そして静かに言葉を重ねた。
「……大塚社長は、どうやら君に伝えていないようだな」
伊織の胸を、嫌な予感が走り抜ける。
「何を、ですか?」
張り詰めた空気の中、その問いだけが静かに宙に浮かんでいた。
真樹の声は、低く重かった。
「今回の件で……彼の会社の大口契約が、立て続けにキャンセルされている」
「そんな……!」
伊織の顔から、みるみる血の気が引いていく。
「どうして……?」
真樹は視線を逸らさず、伊織を真正面から見据えた。
「週刊誌の記者に、君の素性が割れている。
もちろん、勤務先もだ」
伊織は愕然とし、思わず胸元に手を当てた。
呼吸が一瞬、詰まる。
真樹の声は、さらに低く沈む。
「……掲載された、忠相と佐藤の娘の写真も――偶然ではない」
伊織は、はっと顔を上げた。
「どういうことですか?」
真樹は一度、忠相に視線を移す。
それから、そこにいる全員へ向けて、淡々と言葉を続けた。
「あのレストランに勤めていた従業員の一人が、
忠相の予約日時を佐藤に流していた」
静かな断定だった。
「つまり――写真を撮られるように、最初から仕組まれていたということだ」
言葉が落ちた瞬間、
部屋の空気が、さらに一段深く沈み込んだ。
伊織の胸が、すっと冷えた。
「……じゃあ、最初から……」
言葉の続きを口にする前に、忠相が低く、苦々しい声で応じる。
「そうだ。偶然を装った罠だ」
忠相は腕を組んだまま、短く息を吐き、鋭く言い捨てた。
「内部にまで手を伸ばすとは……」
その一言に、事態の根深さが滲む。
美咲は伊織の横顔をそっと見つめ、小さく眉を寄せた。
かける言葉を探しながらも、何も言えずにいる。
伊織は俯いたまま、ただ静かに拳を握りしめていた。
怒りでも涙でもない――
感情が凍りついたような沈黙が、彼女の内側に広がっていく。
その沈黙こそが、今夜の重さを何よりも雄弁に物語っていた。