クズ御曹司の執着愛
伊織が泣き疲れて眠りについたのを確かめ、忠相はそっと毛布を整えた。
無防備な寝顔に、思わず手を伸ばしかけ――指を止め、拳を握りしめる。

(成島……)

胸の奥で、熱を帯びた感情が渦を巻く。

(お前がしたことを、俺は一生、許さない)

目を閉じるたび、伊織の告白が何度も蘇った。
心も体も踏みにじられ、守られるはずだった命さえ失ったこと。
あのとき彼女が一人で背負った絶望を思うと、胸の奥が灼けるように痛む。

――最初は、考えた。
伊織に協力を頼み、成島をおびき出し、証拠とともに追い詰める策を。

だが、眠る彼女の横顔を見つめた瞬間、悟った。
それは“正しさ”の名を借りた、二度目の加害に過ぎない。

忠相は深く息を吐き、視線を天井へ向ける。

「……次の手を考えなければならない」

低くつぶやいた声が、暗い寝室に溶けていく。

伊織をこれ以上、傷つけない。
過去を掘り返さず、恐怖を背負わせず――それでも、成島を確実に追い詰める。

それが、今の忠相に課せられた使命だった。

彼は再び伊織へ視線を戻す。
その眠りを乱さぬよう、音を立てずに立ち上がり、部屋を後にした。

――守ると決めた。
この人を、これから先の時間を。
どんな犠牲を払っても。
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