クズ御曹司の執着愛
翌朝、テレビは臨時ニュースで持ちきりだった。
「成島建設社長・成島弘明氏が辞任を表明。後任は次男・誠二郎氏に……」
「専務・成島純一郎容疑者は、監禁および傷害未遂の容疑で逮捕。精神医療刑務所に送致される見込みです」
アナウンサーの声が淡々と続く。
「また、今回の事件を通じて、専務・成島純一郎と佐藤建設との不適切な関係も明らかになりました。週刊誌記事の背後に、この二者の繋がりがあったことが確認されています」
画面には、会見場で深々と頭を下げる成島弘明の姿と、冷静に言葉を紡ぐ次男・誠二郎の姿が映し出されていた。
伊織は画面に釘付けになりながら、ふと隣に座る忠相へ視線を向ける。
その横顔には冷ややかな光が宿り、決してこの件を曖昧に終わらせないという、揺るぎない決意が浮かんでいた。
テーブルの上には、週刊誌が無造作に置かれている。
大仰な見出しが踊っていた。
――華やぐキャンパスの裏側
三人の御曹司令嬢をめぐる愛憎劇
記事は、大学時代の忠相・伊織・純一郎を「歪んだ三角関係」として面白おかしく描き立てている。
伊織が二人の間で揺れ動いたかのように書かれ、純一郎は「破滅の影を背負った悲劇の御曹司」、忠相は「冷徹にすべてを奪う男」と脚色されていた。
さらに、佐藤建設の娘・絵里香を「悲劇の令嬢」と持ち上げながら、別ページではホスト風の男と並んで歩く姿をスクープし、「忠相とは無関係」と断じている。
忠相は誌面を閉じ、深いため息を吐いた。
「……くだらん。根も葉もない捏造ばかりだ」
伊織は静かに首を振り、落ち着いた声で言った。
「週刊誌なんて、そんなものよ。そのうち誰も気にしなくなるわ。時間が流れれば、風化していく」
その言葉に、忠相はわずかに眉を緩める。
「……そうだな。だが、伊織の気丈さには本当に感心する」
ソファに深く身を預け、忠相は問いかけた。
「来週から、出社できそうか?」
伊織は一瞬考え、静かにうなずく。
「うん、大丈夫」
少し不安げに彼を見上げる。
「……出社しても、いいの?」
「もちろんだ。真兄も了承してくれた」
その言葉に、伊織の表情がぱっと明るくなる。
「そっか……」
嬉しそうな笑顔に、忠相も口元を緩めた。
「そんなに嬉しいのか?」
伊織は照れくさそうに首をかしげる。
「嬉しいわよ。堂々と外を歩けるって思えることが、生きてるって感じられるの」
忠相は肩をすくめ、軽く笑った。
「大げさだな」
だが、伊織は真っ直ぐ彼を見つめ、静かに言葉を続ける。
「大げさなんかじゃない……。成島君、本気で私を殺して、自分も死ぬつもりだったと思う。だから、こうして生きていられることは、私にとって奇跡なの」
部屋に、短い沈黙が落ちた。
伊織は視線を伏せ、低く続ける。
「あの時の恐怖は、今まで感じたことがなかった。刃物を突きつけられる感覚なんて……あなたにはわからないでしょうし、わかってほしいとも思わない。でも、私の中にはまだ残ってる」
忠相は苦く息を吐いた。
「……俺は、伊織がこの事件のことを一日も早く忘れられるようにしてやりたい」
伊織は小さく首を振った。
「忘れられるものなら、私だって今すぐ忘れたい」
そう言って、自分の掌を見つめる。
指先に残る、わずかな震えを確かめるように。
沈んだ空気を破るように、忠相はそっと腕を広げた。
「……伊織。言ってくれ。俺はお前のために、何をしてやれる?」
その声に導かれるように、伊織は彼の胸に抱き寄せられる。
強すぎず、けれど逃げ場を与えない、静かな抱擁。
「……わからない」
かすれた声で、伊織は呟いた。
忠相は彼女の髪に額を寄せ、低く囁く。
「わかったら、教えてくれるか?」
「……うん」
伊織は迷いと安堵の狭間で震える腕を伸ばし、忠相を抱きしめ返した。
その温もりの中で、彼を愛しているのかどうか――
その答えだけは、まだ見つけられずにいた。
「成島建設社長・成島弘明氏が辞任を表明。後任は次男・誠二郎氏に……」
「専務・成島純一郎容疑者は、監禁および傷害未遂の容疑で逮捕。精神医療刑務所に送致される見込みです」
アナウンサーの声が淡々と続く。
「また、今回の事件を通じて、専務・成島純一郎と佐藤建設との不適切な関係も明らかになりました。週刊誌記事の背後に、この二者の繋がりがあったことが確認されています」
画面には、会見場で深々と頭を下げる成島弘明の姿と、冷静に言葉を紡ぐ次男・誠二郎の姿が映し出されていた。
伊織は画面に釘付けになりながら、ふと隣に座る忠相へ視線を向ける。
その横顔には冷ややかな光が宿り、決してこの件を曖昧に終わらせないという、揺るぎない決意が浮かんでいた。
テーブルの上には、週刊誌が無造作に置かれている。
大仰な見出しが踊っていた。
――華やぐキャンパスの裏側
三人の御曹司令嬢をめぐる愛憎劇
記事は、大学時代の忠相・伊織・純一郎を「歪んだ三角関係」として面白おかしく描き立てている。
伊織が二人の間で揺れ動いたかのように書かれ、純一郎は「破滅の影を背負った悲劇の御曹司」、忠相は「冷徹にすべてを奪う男」と脚色されていた。
さらに、佐藤建設の娘・絵里香を「悲劇の令嬢」と持ち上げながら、別ページではホスト風の男と並んで歩く姿をスクープし、「忠相とは無関係」と断じている。
忠相は誌面を閉じ、深いため息を吐いた。
「……くだらん。根も葉もない捏造ばかりだ」
伊織は静かに首を振り、落ち着いた声で言った。
「週刊誌なんて、そんなものよ。そのうち誰も気にしなくなるわ。時間が流れれば、風化していく」
その言葉に、忠相はわずかに眉を緩める。
「……そうだな。だが、伊織の気丈さには本当に感心する」
ソファに深く身を預け、忠相は問いかけた。
「来週から、出社できそうか?」
伊織は一瞬考え、静かにうなずく。
「うん、大丈夫」
少し不安げに彼を見上げる。
「……出社しても、いいの?」
「もちろんだ。真兄も了承してくれた」
その言葉に、伊織の表情がぱっと明るくなる。
「そっか……」
嬉しそうな笑顔に、忠相も口元を緩めた。
「そんなに嬉しいのか?」
伊織は照れくさそうに首をかしげる。
「嬉しいわよ。堂々と外を歩けるって思えることが、生きてるって感じられるの」
忠相は肩をすくめ、軽く笑った。
「大げさだな」
だが、伊織は真っ直ぐ彼を見つめ、静かに言葉を続ける。
「大げさなんかじゃない……。成島君、本気で私を殺して、自分も死ぬつもりだったと思う。だから、こうして生きていられることは、私にとって奇跡なの」
部屋に、短い沈黙が落ちた。
伊織は視線を伏せ、低く続ける。
「あの時の恐怖は、今まで感じたことがなかった。刃物を突きつけられる感覚なんて……あなたにはわからないでしょうし、わかってほしいとも思わない。でも、私の中にはまだ残ってる」
忠相は苦く息を吐いた。
「……俺は、伊織がこの事件のことを一日も早く忘れられるようにしてやりたい」
伊織は小さく首を振った。
「忘れられるものなら、私だって今すぐ忘れたい」
そう言って、自分の掌を見つめる。
指先に残る、わずかな震えを確かめるように。
沈んだ空気を破るように、忠相はそっと腕を広げた。
「……伊織。言ってくれ。俺はお前のために、何をしてやれる?」
その声に導かれるように、伊織は彼の胸に抱き寄せられる。
強すぎず、けれど逃げ場を与えない、静かな抱擁。
「……わからない」
かすれた声で、伊織は呟いた。
忠相は彼女の髪に額を寄せ、低く囁く。
「わかったら、教えてくれるか?」
「……うん」
伊織は迷いと安堵の狭間で震える腕を伸ばし、忠相を抱きしめ返した。
その温もりの中で、彼を愛しているのかどうか――
その答えだけは、まだ見つけられずにいた。