クズ御曹司の執着愛
「伊織、今日と明日は外出せずに、ここでゆっくり過ごしたほうがいいだろう」
忠相が穏やかに告げる。
「そうね。月曜日からは出社だし」
伊織はうなずき、ソファに身を沈めた。
「体の調子はどうだ?」
「うん、もう大丈夫よ。……まだ痣は残っているけれど、痛みはもうないわ」
「そうか、よかった」
その声音には、確かに安堵が滲んでいた。
短い沈黙のあと、忠相が問いかける。
「何か、したいことはあるか?」
「特にないわ」
伊織は小さく笑みを浮かべて答えた。
ふと気になり、問い返す。
「忠相は、いつも週末はどう過ごしているの?」
「仕事をしたり、ジムに行ったり、読書や映画や建造物を見たり……あとは、静かに過ごすことが多いな」
淡々とした答えだった。
けれど、その日常の断片から、伊織はかすかな“孤独”を感じ取ってしまう。
胸の奥が、ちくりと疼いた。
(私は……彼のそういう時間に割り込んでいるの?
それとも、受け入れられているの?)
「私のことは気にしなくていいから、好きなことしてね」
そう言うと、忠相は目を細めて問い返す。
「……伊織は、一人で過ごしたいのか?」
「うん。そういうときもあるわ。もともと一人が好きだし、一人の時間を大事にしてきたの」
「何をする?」
「特に何もしないかな。読書はするけど……ぼーっとしてる、かも」
その声音には、静かな意思と、わずかな寂しさが滲んでいた。
忠相は短くうなずき、その答えを受け止める。
「俺がそばにいたら、ぼーっとできないか?」
伊織は言葉に詰まり、視線を逸らす。
「……わからない。したことがないから」
その正直さに、忠相は小さく笑った。
「……それもそうだな」
少し間を置き、真っ直ぐに言う。
「俺は、できる限りお前と一緒に過ごしたい」
「忠相は……私と、どんな時間を過ごしたいの?」
伊織の問いに、忠相は迷いなく視線を合わせた。
「守るだけじゃ足りない。
お前を甘やかしたいし……伊織という人間を、もっと知り尽くしたい」
その言葉には、若さではない、成熟した男の余裕と独占があった。
穏やかなのに、逃げ場を与えない重み。
伊織は答えを返せず、ただカップの中の紅茶を見つめる。
(甘やかされるのは、心地いい。
でも……それは、愛とは違うかもしれない)
土曜日の午後。
二人はリビングで並んで映画を観ていた。
スクリーンの物語よりも、隣に座る忠相の存在が強く意識にのしかかる。
肩に触れる距離。呼吸の音。
安心と、同時に生まれる、形のない息苦しさ。
伊織はそっと姿勢を変え、窓の外へ視線を逃がした。
晴れ渡る空とは裏腹に、胸の内は澄まない。
(私は……望んでここにいる?
それとも、成り行きに身を委ねてきただけ?)
浮かぶ問いは、どれも答えを結ばない。
安らぎに身を預けながらも、胸の奥のざわめきは消えなかった。
日曜日は、さらに静かだった。
忠相は早朝からジムへ行き、戻ってからは本を開く。
伊織もソファでページをめくるが、文字は目をすり抜けていく。
残るのは、言葉ではなく、整理のつかない問いばかり。
「伊織……」
不意に呼ばれ、顔を上げると、忠相の視線が真っ直ぐに向けられていた。
「何を考えている?」
少し戸惑いながらも、伊織は正直に答える。
「……忠相って、すごい人だなって。あらためて思ったの」
「……急だな」
わずかに眉をひそめながらも、声には照れが混じる。
伊織は一瞬ためらい、それでも視線を逸らさずに続けた。
「……私は、これからどうしたらいいんだろうって考えてた」
忠相の眉が、わずかに動く。
「どうしたらいい、とは?」
「どう生きていきたいのか……ってこと」
言葉が落ち、部屋に静かな余韻が広がった。
忠相はしばらく黙り、伊織を見つめる。
「俺と生きていくことについて……今、伊織が思っていることは何だ?」
忠相の問いは、静かだった。
だが逃げ道を与えない響きを帯びていた。
伊織は視線を伏せたまま、ゆっくりと言葉を落とす。
「……忠相との未来を、うまく想像できないの」
一拍置き、続けた。
「私たちって、サークルで一緒だった年月はあるけれど……本当の意味では、お互いをよく知らないでしょう?」
忠相の眉が、わずかに動く。
「俺は、少しは知っていた」
低く、即答だった。
「……美咲先輩とも、ずっと連絡を取っていたからな」
伊織は指先を絡め、視線を落としたまま言葉を探す。
「婚約者になってから……忠相の立場や、背負っている責任が、急に現実味を帯びてきたの」
声は静かだったが、どこか揺れていた。
「“仕事だから”って言われても……本当に、これでよかったのかって、考えてしまうの」
忠相は黙って聞いていた。
遮らず、否定もせず、ただ受け止めている。
伊織は胸の奥で、自分に問いかける。
(私は守られている。でも……私は彼を愛しているの?
それとも、彼の肩書きや力に、引き寄せられているだけ?)
忠相が一歩、距離を詰めた。
視線はまっすぐで、声は驚くほど静かだった。
「俺は、一度も“仕事”だと思ったことはない」
間を置き、はっきりと言う。
「言っただろう。おまえを愛している。誰よりも、ずっと前から」
彼はそっと伊織の手を取り、指先まで確かめるように握る。
伝わる体温に、伊織は唇を噛んだ。
忠相が穏やかに告げる。
「そうね。月曜日からは出社だし」
伊織はうなずき、ソファに身を沈めた。
「体の調子はどうだ?」
「うん、もう大丈夫よ。……まだ痣は残っているけれど、痛みはもうないわ」
「そうか、よかった」
その声音には、確かに安堵が滲んでいた。
短い沈黙のあと、忠相が問いかける。
「何か、したいことはあるか?」
「特にないわ」
伊織は小さく笑みを浮かべて答えた。
ふと気になり、問い返す。
「忠相は、いつも週末はどう過ごしているの?」
「仕事をしたり、ジムに行ったり、読書や映画や建造物を見たり……あとは、静かに過ごすことが多いな」
淡々とした答えだった。
けれど、その日常の断片から、伊織はかすかな“孤独”を感じ取ってしまう。
胸の奥が、ちくりと疼いた。
(私は……彼のそういう時間に割り込んでいるの?
それとも、受け入れられているの?)
「私のことは気にしなくていいから、好きなことしてね」
そう言うと、忠相は目を細めて問い返す。
「……伊織は、一人で過ごしたいのか?」
「うん。そういうときもあるわ。もともと一人が好きだし、一人の時間を大事にしてきたの」
「何をする?」
「特に何もしないかな。読書はするけど……ぼーっとしてる、かも」
その声音には、静かな意思と、わずかな寂しさが滲んでいた。
忠相は短くうなずき、その答えを受け止める。
「俺がそばにいたら、ぼーっとできないか?」
伊織は言葉に詰まり、視線を逸らす。
「……わからない。したことがないから」
その正直さに、忠相は小さく笑った。
「……それもそうだな」
少し間を置き、真っ直ぐに言う。
「俺は、できる限りお前と一緒に過ごしたい」
「忠相は……私と、どんな時間を過ごしたいの?」
伊織の問いに、忠相は迷いなく視線を合わせた。
「守るだけじゃ足りない。
お前を甘やかしたいし……伊織という人間を、もっと知り尽くしたい」
その言葉には、若さではない、成熟した男の余裕と独占があった。
穏やかなのに、逃げ場を与えない重み。
伊織は答えを返せず、ただカップの中の紅茶を見つめる。
(甘やかされるのは、心地いい。
でも……それは、愛とは違うかもしれない)
土曜日の午後。
二人はリビングで並んで映画を観ていた。
スクリーンの物語よりも、隣に座る忠相の存在が強く意識にのしかかる。
肩に触れる距離。呼吸の音。
安心と、同時に生まれる、形のない息苦しさ。
伊織はそっと姿勢を変え、窓の外へ視線を逃がした。
晴れ渡る空とは裏腹に、胸の内は澄まない。
(私は……望んでここにいる?
それとも、成り行きに身を委ねてきただけ?)
浮かぶ問いは、どれも答えを結ばない。
安らぎに身を預けながらも、胸の奥のざわめきは消えなかった。
日曜日は、さらに静かだった。
忠相は早朝からジムへ行き、戻ってからは本を開く。
伊織もソファでページをめくるが、文字は目をすり抜けていく。
残るのは、言葉ではなく、整理のつかない問いばかり。
「伊織……」
不意に呼ばれ、顔を上げると、忠相の視線が真っ直ぐに向けられていた。
「何を考えている?」
少し戸惑いながらも、伊織は正直に答える。
「……忠相って、すごい人だなって。あらためて思ったの」
「……急だな」
わずかに眉をひそめながらも、声には照れが混じる。
伊織は一瞬ためらい、それでも視線を逸らさずに続けた。
「……私は、これからどうしたらいいんだろうって考えてた」
忠相の眉が、わずかに動く。
「どうしたらいい、とは?」
「どう生きていきたいのか……ってこと」
言葉が落ち、部屋に静かな余韻が広がった。
忠相はしばらく黙り、伊織を見つめる。
「俺と生きていくことについて……今、伊織が思っていることは何だ?」
忠相の問いは、静かだった。
だが逃げ道を与えない響きを帯びていた。
伊織は視線を伏せたまま、ゆっくりと言葉を落とす。
「……忠相との未来を、うまく想像できないの」
一拍置き、続けた。
「私たちって、サークルで一緒だった年月はあるけれど……本当の意味では、お互いをよく知らないでしょう?」
忠相の眉が、わずかに動く。
「俺は、少しは知っていた」
低く、即答だった。
「……美咲先輩とも、ずっと連絡を取っていたからな」
伊織は指先を絡め、視線を落としたまま言葉を探す。
「婚約者になってから……忠相の立場や、背負っている責任が、急に現実味を帯びてきたの」
声は静かだったが、どこか揺れていた。
「“仕事だから”って言われても……本当に、これでよかったのかって、考えてしまうの」
忠相は黙って聞いていた。
遮らず、否定もせず、ただ受け止めている。
伊織は胸の奥で、自分に問いかける。
(私は守られている。でも……私は彼を愛しているの?
それとも、彼の肩書きや力に、引き寄せられているだけ?)
忠相が一歩、距離を詰めた。
視線はまっすぐで、声は驚くほど静かだった。
「俺は、一度も“仕事”だと思ったことはない」
間を置き、はっきりと言う。
「言っただろう。おまえを愛している。誰よりも、ずっと前から」
彼はそっと伊織の手を取り、指先まで確かめるように握る。
伝わる体温に、伊織は唇を噛んだ。