いつか、桜の季節に 出逢えたら
話しているうちに、遠目に神社の鳥居が見えてきた。
新年らしく、初詣客でごった返している。

「これぞ、新年って感じがするよね」

「並ぶの、面倒だと思わないのかよ」


人の流れに身を任せ、まずは手水舎で手と口を清め、参拝者の行列に並ぶ。

「そういえば、今年はお互い受験生なんだよね。帰りにお守り買って帰る?」

「……思い出したくなかった」

渋い表情で空を仰ぐ彼は、勉強が苦手なのだろうか。

「勉強なら教えられるよ。なぜか忘れてないみたいなんだよね」

得意気に言うと、予想外の反応が返ってきた。

「は? 何言ってんの? 俺より成績悪いくせに」

ーーあれ?
私、結構できる方だと思うんだけど。

「じゃあ、何か悩み事があったら、相談してよね。話を聞くことしかできないかもしれないけど、妹ととして力になりたいと思ってるよ」

「お前、本当、性格変わりすぎ」

ーー少し、笑った?
ただの無愛想じゃなくて、ちゃんと笑えるじゃん。
大丈夫、私たち、きっと仲良くなれると思う。


「紫苑くん、参拝する時は、神様に自分の住所と氏名を伝えた上で、ご挨拶に伺いましたという気持ちでお参りするんだよ。お願い事ばかりじゃ失礼になるからね?」

「なんでそんなに詳しいんだよ」

そういえば、なぜだろう?
大抵のことは覚えているのだから、神社の参拝方法を知っていても不思議ではない。
でも、過去に日常的に神社を参拝していたような気がする。

「紫苑くん、ここ以外によく行く神社ある?」

「いや、この辺では神社と言ったらここだし、わざわざ他に行くことはないと思うけど」

思い出せそうなのに、思い出す材料がなさすぎて、宙ぶらりんなまま。
確かに、ここではないどこかの神社に参拝していた気がするのに。

参拝者の列は進み、いよいよ私たちの番になった。
体が覚えているかのように、慣れた所作で二礼二拍手をする。

ーーいや、でも待って。
ついさっき、紫苑に参拝レクチャーを施したばかりなのに。

「……どうしよう。紫苑くん、私、住所を覚えてない……」

「じゃあ、氏名と願い事だけしとけ。住所は俺がまとめて言っとくわ」

二人でフフッと笑い、私は心の中で祈る。

「どうか、紫苑くんの願いが叶いますように」

「あと、私の記憶も戻していただけると、とても嬉しいです」
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