いつか、桜の季節に 出逢えたら
第16話 2月17日 謎、解明
今日の放課後は、紫苑が委員会のため、初めて一人で帰る。
一ヶ月以上経つから、もう道に迷うこともない。
とある民家の塀の上から、突然、目の前に尻尾の太い猫が飛び降りた。
毛並みの良い三毛猫。
「にゃあ」
猫がこちらを見ている。
その時、この猫が自分の膝に乗っているビジョンが浮かんだ。
ーー私は確かに、この猫を知っている。
「にゃあ」
猫は、こちらへ来いと言わんばかりに、振り返っては少しずつ先に進む。
「……待って」
その猫に誘導されるかのように、私は人通りの少ない脇道に入った。
「久しぶりだにゃ」
ーー猫が、しゃべった!!
「お前、いつも他の人間と一緒にいるから、近付けなかったにゃ。やっと一人になったから、声をかけたにゃ」
ーーいやいや、なんで猫がしゃべってんの?
これは、夢?
一度死んだ影響で、いよいよ幻覚まで見えるようになったの?
あまりの衝撃に、言葉が出ない。
「お前、オイラのことまで忘れたのかにゃ?」
忘れたとかそんなことより、猫がしゃべってることの方が異常事態でしょうが。
「記憶喪失は、事故の影響かにゃあ? それとも、橘絵梨花の方の影響かにゃあ? でもまぁ、真っ新な状態に、周囲の者からの記憶の上書きであたかもそうであるかのように信じ込むことは、よくあることらしいにゃ。お前の精神的退行もあったのかもしれないにゃ。だから、お前が女子高生であるかのように自然に行動できるのは、当然のことと言え……」
さっきから、猫がずっと何やらしゃべっているが、何を言っているのか耳に入ってこない。
言葉が出ないまま、口をパクパクしていると、
「仕方ないにゃあ、これ、触ってみ?」
と、私の手に太い尻尾が触れた。
ーーその瞬間。
頭の中に、消えていたはずの全ての記憶が流れ込んできた。
絵梨花のじゃない、”私”の記憶が。
私の本当の名前は、青木縁、25歳
高校教師になって三年目、担当科目は、数学。
毎日、詰め込まれる通勤電車。
時間単位でギュウギュウなスケジュール、残業。
素行不良な生徒への対応、理不尽な要求をする保護者、セクハラ&パワハラ上司。
理想と現実との間で、自分は教師が向いていないのではないかと、思い悩んでいた。
毎朝、通勤途中の神社に立ち寄っては「今日こそは、良い日でありますように」と、お願いをしていた。
この猫と出会ったのも、その神社だった。
たまに餌をあげたり、寒い日には膝の上に乗せたりして。
あの日、この猫が車に轢かれそうになって、車道に飛び出したところまでは覚えている。
一ヶ月以上経つから、もう道に迷うこともない。
とある民家の塀の上から、突然、目の前に尻尾の太い猫が飛び降りた。
毛並みの良い三毛猫。
「にゃあ」
猫がこちらを見ている。
その時、この猫が自分の膝に乗っているビジョンが浮かんだ。
ーー私は確かに、この猫を知っている。
「にゃあ」
猫は、こちらへ来いと言わんばかりに、振り返っては少しずつ先に進む。
「……待って」
その猫に誘導されるかのように、私は人通りの少ない脇道に入った。
「久しぶりだにゃ」
ーー猫が、しゃべった!!
「お前、いつも他の人間と一緒にいるから、近付けなかったにゃ。やっと一人になったから、声をかけたにゃ」
ーーいやいや、なんで猫がしゃべってんの?
これは、夢?
一度死んだ影響で、いよいよ幻覚まで見えるようになったの?
あまりの衝撃に、言葉が出ない。
「お前、オイラのことまで忘れたのかにゃ?」
忘れたとかそんなことより、猫がしゃべってることの方が異常事態でしょうが。
「記憶喪失は、事故の影響かにゃあ? それとも、橘絵梨花の方の影響かにゃあ? でもまぁ、真っ新な状態に、周囲の者からの記憶の上書きであたかもそうであるかのように信じ込むことは、よくあることらしいにゃ。お前の精神的退行もあったのかもしれないにゃ。だから、お前が女子高生であるかのように自然に行動できるのは、当然のことと言え……」
さっきから、猫がずっと何やらしゃべっているが、何を言っているのか耳に入ってこない。
言葉が出ないまま、口をパクパクしていると、
「仕方ないにゃあ、これ、触ってみ?」
と、私の手に太い尻尾が触れた。
ーーその瞬間。
頭の中に、消えていたはずの全ての記憶が流れ込んできた。
絵梨花のじゃない、”私”の記憶が。
私の本当の名前は、青木縁、25歳
高校教師になって三年目、担当科目は、数学。
毎日、詰め込まれる通勤電車。
時間単位でギュウギュウなスケジュール、残業。
素行不良な生徒への対応、理不尽な要求をする保護者、セクハラ&パワハラ上司。
理想と現実との間で、自分は教師が向いていないのではないかと、思い悩んでいた。
毎朝、通勤途中の神社に立ち寄っては「今日こそは、良い日でありますように」と、お願いをしていた。
この猫と出会ったのも、その神社だった。
たまに餌をあげたり、寒い日には膝の上に乗せたりして。
あの日、この猫が車に轢かれそうになって、車道に飛び出したところまでは覚えている。