きみと、まるはだかの恋
「す、すみません。意地汚くて……」

 無我夢中でおにぎりを食べる姿を見られてしまったことが恥ずかしくて、カメが殻に籠るように首を縮こませる。

「いえ、いいのよ。むしろあまりに豪快な食べっぷりに見惚れていたぐらい。自分がつくった料理を夢中に食べてくれるところを見ると、幸せな気持ちになるの」

 温かい言葉だ。私は、誰かに自分の手料理を振る舞ったことはおろか、自分の食事すらコンビニやスーパーで買ってきた出来合いのおかずで済ませることが多い。だから、彼女のその気持ちは私にとっては新鮮で、目から鱗だった。

「そういうもんなんですか」

「ええ。誰だってそうだと思うわ。あなたのお母さんだってきっとそうよ」

「そっか……。そうですよね」

 実家で暮らしていた頃、母の手料理は毎日当たり前に出てくるものだった。
 でも、母の作ったご飯を食べながら、ひとことでも「おいしい」と笑ったことはあっただろうか。
 あまり思い出せないけれど、学生だった私は、たぶんむすっとした顔で義務感に駆られて食べていたんだろうな……。
 そう思うと、母に申し訳ない気持ちになる。今すぐLINEでもして「お母さんのご飯がまた食べたい」なんて殊勝なメッセージを入れる素直さもなく、ただ店員さんの心遣いに感服するばかりだった。

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