きみと、まるはだかの恋
「なんでさっきからずっと笑ってるの」

「いや、波奈とこうして面と向かって話すの久しぶりなのに、昔みたいだなと思って」

「この前会ったじゃない」

「あれはほら、お互い“よそ行き”だっただろ。でも今はふたりだけで砕けて話せてる」

「店員さんがいるじゃん」

「三上さんは別。あのひとは村のお母さんみたいなもんだから」

「はあ」

 店のカウンターの奥でコーヒーを入れている三上さんのほうを見ると、彼女はまた意味深な笑みを浮かべた。まるで「頑張って」と言われているようだ。完全に娘の恋バナを聴く母親の顔だった。

「で、波奈はどうしたの? なんでまた星見里に?」

「それは……」
 
 彼に、この場所に再びやって来た経緯を話すかどうか迷う。一言で言えば、「仕事やプライベートで疲れてしまって」ということになるのだが、そんなありふれた理由を伝えてもいいのだろうかと迷う。つっこまれたら面倒臭い。仕事の話とか、男と会っているところを激写された話とか。SNSで拡散されてしまったこととか。SNSの件はもう確認してもいないが、アプリを開けば鬼のような通知が届いているに違いない。煩わしいのでポップアップ通知はオフにしている。たぶん、この様子だと彼は知らないだろう。そもそも昴は昔からSNSというものに疎かったし、今もやっているような感じはしない。時代の波に取り残されても全然平気そうな顔をするのだろう。
……と、頭の中でぐるぐると経緯について考えていると、「まあ理由なんてどうでもいいか」と彼は笑った。
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