きみと、まるはだかの恋

第三章 揺れる心の距離

 翌朝。
 チチチと鳥の囀りで目を覚ましたのは実家で暮らしていた頃以来だった。
 ぼんやりとした視界に滲む見慣れない天井の色と模様に一瞬ここがどこだか分からない。が、十秒ぐらいしてようやく昴の家に泊まっていることを思い出した。

「はっ!」

 ガバッと掛け布団を剥がして、スマホを見る。どうせ電波がないからと、昨日はすっかりスマホを見ることがなかった。時刻は午前九時過ぎ。普段は六時台に起きるので、とんだ寝坊だ。

「昴―!」

 慌てて着替えを済ませて居間へと飛び出していく。が、昴の姿は見当たらない。
 代わりにダイニングテーブルの上に食パンとサラダ、卵焼きが乗ったプレートが置かれていた。
 玄関に行くと、彼が履いていた靴が——いや、農作業用の長靴がない。

「もしかして……」

 気になって、私も靴を履いて外へと出る。すっぴんでちょっと気になったけれど、田舎だし、近くにひとがいないことを祈った。昨日は暗くてあまりよく見えなかったが、昴の家の周りには田んぼがいくつも広がっている。稲穂の広がる田んぼのひとつに、昴が腰を折って何やら作業をしている様子が見えた。

「昴」

 彼の近くまで歩いて声をかける。昴にすっぴんを見られるのは恥ずかしかったが、高校時代はほとんどすっぴんで過ごしていたから、今更恥ずかしいと思うのもおかしいのかもしれない。
 それより、昨日の夜のことは覚えているんだろうか。
 私が昴に、強引にキ、キスしちゃったこと……。

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