きみと、まるはだかの恋
「インフルエンサーは普通の会社員とは違うんだって」

 昴が私の仕事に対して解像度が低いのは仕方のないことだ。誰だって、自分がやったことのない仕事がどんなものなのか、経験してみないと分からないのだから。

「それはそうだけど。波奈、ずっと疲れた顔してるから。たまには自然相手に仕事してみるのもいいんじゃない? ほら、こういう畑違いの仕事も、波奈の仕事の糧になるかもしれないでしょ。手伝ってよ。昨日の宿泊代だと思ってさ」

「宿泊代……」

 痛いところを突かれた。確かに、昨日私は昴に一晩泊めてもらっている。宿泊代はいくらか支払おうと思っていたが、それを労働でお返しするように言われるとは。農業なんてしたことないんだけど……と尻込みしつつ、これは、昴ともう少し長くいる絶好の口実になるのでは? とも思った。
 昨日、彼への恋心を自覚してしまった私は、結局昴のお願いを無碍にすることなんてできなかった。

「分かった。手伝います」

「おお、さんきゅな。朝ごはんしっかり食べてまた来てくれる? つなぎは俺の部屋に新しいのがあるからそれ着てきて」

「はーい」

 つなぎとかよく分からないけど、とりあえず準備をしてまた戻ってくることを約束する。インフルエンサーとしての仕事は……まあ、今抱えている案件は美容コスメのPRぐらいだから、今日一日何もしなくても大丈夫……かな。
 となんとか自分を納得させるのだが、やっぱり頭の片隅では本来の仕事をしていないことで、焦りが生じるのだった。

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