幼馴染み皇子の強引すぎる婚約破棄と溺愛
「セシリア、君とは幼い頃から共に時間を過ごした。」

穏やかな声に、私は溢れる涙を拭いながらうなずいた。

「はい、その通りでございます。」

ユリウス殿下は少し笑みを浮かべ、それから真剣な眼差しで私を見つめる。

「君に花を差し出した時のことを、覚えているだろうか。」

胸が締め付けられる。──あの時のことだ。

「はい。忘れもしません。」

幼い私が「可哀想だから花を摘まないで」と口にした、その一瞬。

私は彼を拒んでしまったのだ。

それなのに、彼は今もその記憶を口にしている。

「その時の花を覚えているだろうか。」

静かな問いに、私は言葉を失った。

「えっ……」

必死に思い出そうとする。

けれど、子供の頃の記憶は曖昧で、どんな花だったかはどうしても浮かんでこない。

「……申し訳ございません。思い出せません。」

ユリウス殿下は苦笑し、そしてぎゅっと刺繍のハンカチを握りしめた。

「俺は、忘れていない。」

その声には、抑えきれない激情がにじんでいた。
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