幼馴染み皇子の強引すぎる婚約破棄と溺愛
「あの花は、薔薇だ。」

ユリウス殿下の声に、私は息を呑んだ。

「俺は、あの頃から君を……」

脳裏に蘇る。

幼い庭園で花を差し出してきた少年の姿。

拗ねたように笑い、けれどまっすぐに私を見ていたあの瞳。

「愛していた。それは今も変わらない。」

その言葉に、全身が震えた。

皇子ユリウスではなく、幼馴染みのユリウスが目の前に立っている。

「殿下……娘はそこまで深く考えていたわけでは……」

父が慌てて言葉を差し挟む。

家の立場を守ろうとする必死の声。

けれど、私はもう涙を抑えることができなかった。

頬を伝う雫を拭おうとしても、次から次へと溢れ出してしまう。

ああ、なんてこと。

こんな大勢の人々の前で、私と殿下が互いに想い合っていたことを知らされるなんて──。

心は熱く乱れ、世界が揺らぐように感じられた。
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