幼馴染み皇子の強引すぎる婚約破棄と溺愛
「……君は、薔薇を贈る意味を知っているのか。」

ユリウス殿下の低い声に、胸が震えた。

「それは……殿下もご存じかと思います。」

そう答えるのが精一杯だった。

薔薇は愛を意味する花──父からそう教えられて育った。

だからこそ、この国の象徴であり、愛する人に捧げるにふさわしいと思ったのだ。

けれど、それを口にすれば、私の想いが露わになってしまう。

「殿下、そのハンカチ。お預かりいたします。」

傍らの家臣が一歩前に進み出て、恭しく声を掛けた。

そうだ。どんな贈り物も、一度は家臣を通して整理されるのが習わし。

たとえ一枚の刺繍布であっても、例外ではない。

しかし──。

ユリウス殿下は動かなかった。

家臣に渡そうとせず、その白布を強く握りしめる。

視線はまっすぐに私を射抜き、決して逸らさない。
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