幼馴染み皇子の強引すぎる婚約破棄と溺愛
支度を終えた部屋の扉が静かに開いた。

振り返ると、父と母が揃って立っていた。

「セシリア……」

母の瞳が、私の姿を見た途端に潤んだ。

「まぁ、本当に……花嫁さんね。」

父も無言で歩み寄り、私の姿をしばし見つめていた。

厳格な表情が少しずつ緩み、目尻が赤くなる。

「お父様……」

声をかけると、父は小さく首を振った。

「立派になったな、セシリア。幼い頃、庭を駆け回っていたおまえが、今こうして嫁いでいくとは……」

母はハンカチを取り出し、目元を押さえる。

「幸せになるのよ、セシリア。あの殿下となら、きっと大丈夫。」

胸がいっぱいになり、言葉が出なかった。

ただ「はい」と頷き、父と母に微笑みを返す。

──愛され、育てられてきた証が、今この瞬間にあふれている。

両親の涙は、私にとって何よりも誇らしい祝福だった。
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